舞鶴女子高生殺人で無罪判決の「中勝美」、再び殺人未遂で逮捕、“獄死“の数奇な人生

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「お答えしづらい」

 スタッフだけに教えていた方法で玄関ドアの鍵を開けた中勝美は、Aさんが寝ている部屋に侵入。マスクに帽子、手にはナイフを持ち、軍手をはめていた。

「金庫を開けろ。俺の名前と住所を書いたのを出せ」

 Aさんが「鍵を取りに行く」と言い、その場を離れようとするも、中勝美は突然、Aさんの頬を思いっきり叩き、その首にナイフの刃先を突きつけ、こう言った。

「殺すぞ」

 ズボンのポケットからタオルを取り出し、Aさんの口を塞ごうとする。

「お前はうるさいから口塞いでしまう」

 抵抗したAさんに中勝美はいきなり抱きつき、両方の乳房を揉んでキスをしてきた。

「お前が好きや。服を脱げ。全部脱げ、脱がないと殺すぞ」

 そしていきなり、Aさんをナイフで刺したのだった。

 だが中勝美は被告人質問で、犯行に至ったのはAさんのせいだという発言を繰り返した。

「給料の話とメモ用紙を返してもらいに、Aさんに会うためホテルに行った。同じことを繰り返し話しているうちに、Aさんがナイフを棚に取りに行き刺してきた。抵抗して刺した」

 と、最初に手を出したのはAさんだったと主張。さらに、胸を揉んだという行為についても、「自分から(服を)脱いだ。胸も揉んでません」と否認した。すると、裁判官はこう切り出した。

裁判官「服役して反省したことはないんですか?」

中勝美「入るとつらい。二度としないように考えます」

裁判官「被害者に申し訳ないという気持ちはないですか?」

中勝美「あります」

裁判官「どの事件?」

 わずかな間のあと、中勝美は答えた。

「……万引きです」

 再び裁判官が問う。

裁判官「万引き以外はないんですか?」

中勝美「あります」

裁判官「どの事件ですか?」

 再び間が空き、中勝美はこう言った。

「……お答えしづらい」

 結局、中勝美には、懲役16年(求刑・懲役25年)の判決が言い渡された。

 裁判官が「どの事件ですか」と訊いたのは、何度か服役の経験があるからだ。舞鶴事件から遡ること35年、中勝美は交際していた女性に復縁を迫ったが相手にされなかったことから恨みを抱き、滋賀県草津市の女性宅に押しかけ、女性とその兄を殺害。さらに近くの民家に侵入し、無関係の姉妹を人質にして立てこもるという事件を起こし、逮捕されている。

「彼女以外は殺すつもりはなかったが、やってしまったからには仕方ないやないか」

 当時、逮捕後の記者らの一問一答に、こう答えた中勝美は、のちに懲役16年の判決を受け服役していた。さらに、1991年には、舞鶴市内で自転車に乗っていた女性を押し倒し、彼女の顔をカッターナイフで切りつけるなどして、再び実刑判決を受け服役している。そして、舞鶴事件は起きた。

「(中勝美には)刑務所の中で死んでもらいたい。出てくるとまた被害が起こる」

 Aさんは法廷でこう語っていたが、奇しくも中勝美は、16年7月、医療刑務所で亡くなった。なお、舞鶴事件は未解決のままだ。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
傍聴ライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)など。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年8月16日掲載

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