京アニ爆殺犯を死なせてはいけない…現場医師が語る治療への葛藤

国内 社会 週刊新潮 2019年8月8日号掲載

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吐きそうになりながら…

 凶悪犯罪の容疑者、犯人に対する医療行為というテーマを取り上げたドラマや漫画を見つけるのはそれほど難しくない。例えば、アメリカの人気ドラマ「グレイズ・アナトミー」には、銃乱射事件を起こして自らも重傷を負った犯人に対峙する医師の苦悩を描いた回がある。手塚治虫の「ブラック・ジャック」では、父親を殺した後に自殺を図り、主人公の手術で一命を取り留めるも、最後は死刑によって命を奪われる少年の姿が描かれる。

 では、フィクションの世界ではなく、現実世界で青葉容疑者と対峙している医師の心情はいかなるものなのか。

「今回の容疑者を治療するスタッフは、毎日吐きそうになりながら頑張っているのかもしれません」

 そう話すのは、『医者の本音』の著者で総合南東北病院外科医長の中山祐次郎氏。事件後、ウェブメディアに〈京アニ放火事件の容疑者を治療するということ 葛藤と苦悩〉との記事を投稿した中山氏は複数回、「容疑者」という立場の人間を治療したことがある。

「プロであるなら淡々と治療すべきだという考え方はもちろん理解しています。しかし私の場合、感情が全く入らなかったかと言えば嘘になります」

 中山氏はそう“告白”し、こう続けるのだ。

「そうした患者さんにも当然、治療を施すわけですが、『なぜ、私はこの人を助けなければならないのか』『悪いことをした人になぜ尽くさなければならないのか』といった気持ちになってしまうのです」

 その後、医者としてのキャリアを積むことで、“病気を憎んで人を憎まず”といった考えに至ったという中山氏。

「医療者は、神様でも裁判官でもありません。ただただ人の命を救うべき存在です。しかし、現実的には苦悩と葛藤を押し殺しながら治療にあたっている医療者もいる。それを書くことが、今、病院で容疑者の治療にあたっている医療者への声援になると考えました」

 まだ青葉容疑者は重篤な状態を脱していない。緊迫と葛藤の集中治療室では、今この瞬間も懸命の治療が行われている――。

特集「京アニ『35人爆殺犯』を死なせてはいけない 緊迫と葛藤の『集中治療室』」より

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