伊藤詩織さんvs.安倍官邸ベッタリ記者の法廷対決 被告が墓穴を掘る「ホテルの証拠ビデオ」

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どちらのベッド?

――性行為はどちらのベッドで?

「ベッドAです」

――詩織さんはベッドAに、あなたがベッドBにいたんだけど、あなたがベッドAに行って、性行為をした?

「はい」

 詩織さんの弁護人は山口記者が事件後に彼女に宛てたメールを示す。

――〈ゲロまみれのあなたのブラウスとスラックスを脱がせ、(中略)ベッドに寝かしました〉……ここで言うベッドというのはベッドAですか?

「はい」

――〈私はあなたの髪の毛などについた嘔吐臭が耐えられなかったので別のベッドで寝ました〉……この別のベッドはBのことですか?

「そうです」

――〈その後あなたは唐突にトイレに立って、戻ってきて私の寝ていたベッドに入ってきました〉……この〈私の寝ていたベッド〉というのはどちらですか?

「ベッドAです」

――ベッドAですか?

「そうです」

 寝ていたベッドはAなのかBなのか。山口記者はこう釈明する。

「(この〈寝ていたベッド〉というのは)“この私のホテルの私が寝ていたベッド”という意味です」

――そう読めますか?

「私はそう書いたんだから」

 そもそも山口記者は別のベッドで寝ていなかったのではないか。傍聴席がざわめいたのはうべなるかな。

 閉廷後、山口記者にアプローチをすると、

「新潮さんは著しく偏向したことを書き続けられているので……」

 ここで改めて、「レイプ」から係争に至る経緯を駆け足で振り返っておこう。

 15年4月3日、TBSのワシントン支局長だった山口記者が一時帰国した折、ニューヨークで知り合い、TBSに働き口を求めていた詩織さんと会食した。山口記者のホームグラウンドである東京・恵比寿で2軒目までハシゴしたところから意識を失った彼女は、その後タクシーに乗せられた。車中で彼女は嘔吐しつつも、タクシーは港区内のホテルへ。山口記者の部屋へ連れ込まれ、翌日未明、性行為の最中に目が覚めた。この裁判の関係者によると、

「山口は今回、詩織さんがちゃんと歩行しているのを証明すべく、ホテルの防犯カメラから取り出した画像を証拠として提出しました。しかし、介抱なしに歩けているとは見えず、墓穴を掘った恰好です」

 話を戻すと……詩織さんの刑事告訴を受け、高輪署は捜査を開始。その年の6月、準強姦容疑での逮捕状を携えた高輪署の捜査員が、機上の人となっていた山口記者を逮捕すべく成田空港でスタンバイしていた。しかし、その直前に逮捕は中止された。それは、当時の警視庁刑事部長で現・警察庁ナンバー3の官房長・中村格(いたる)氏が、「(逮捕は必要ないと)私が決裁した」と本誌(「週刊新潮」)の取材に認めている通りである。

 中村氏は菅官房長官の秘書官を長らく務め、その絶大な信頼を得ており、総理ベッタリ記者の逮捕中止命令は官邸への忖度ではという疑問が、世の中に今もなお燠(おき)のように燻(くすぶ)っている。

 捜査を引き継いだ警視庁からの書類送検を受けた東京地検は、ほぼ1年後の16年7月に不起訴と判断。詩織さんは17年5月、検察審査会に審査申し立てを行なったものの、9月に「不起訴相当」の議決が出た。公開中の映画「新聞記者」製作のきっかけはこの「準強姦逮捕状」握り潰し事件にある、と映画関係者は語っている。

(2)へつづく

週刊新潮 2019年7月18日号掲載

特集「『準強姦逮捕状』が握り潰され4年……『伊藤詩織さん』vs.『安倍官邸ベッタリ記者』の法廷対決」より

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