7pay問題、NETFLIXライバル社の破綻…経営トップの「ITリテラシー」が企業の明暗をわける

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 セブン&アイ・ホールディングスのスマホ決済サービス「7pay(セブンペイ)」で不正アクセス被害が発生し、混乱が生じている。7月4日の記者会見によると、被害者は約900人、被害額は約5500万円に上るという。不正アクセスを招いたセブンペイの脆弱な仕様に加え、記者会見上でセブン・ペイの社長が「2段階認証」を知らないと思われる発言をしたことで、ネット上に経営トップのITリテラシーの低さを嘆く声が広がっている。

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経営トップの“デジタル音痴”が命取り

 実際、経営トップのITリテラシーが企業の明暗をわける事例はめずらしくない。かつてアメリカに君臨したビデオレンタル界の巨人、ブロックバスターが破綻する過程はその代表例といえるだろう。同社はシリコンバレー発のIT企業ネットフリックスに敗れて破綻するが、最後のトリガーを引いたのは、自らの経営トップの“デジタル音痴”だった。『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』(ジーナ・キーティング著、新潮社刊)には、ネットフリックスが躍進をとげるのとは対照的に、破綻への道を突き進むブロックバスターの迷走ぶりが残酷なまでに克明に描かれている。

 映画が庶民にとって最大の娯楽であるアメリカにおいて、ビデオレンタル・販売市場は巨大なマーケットだった。そのトップがブロックバスターだ。週末になれば近所のブロックバスター店まで車を走らせ、わくわくしながら映画を選ぶ。それがアメリカ人にとっての普通の生活パターンだった。

 そうしたなか、1997年に「本以外を売るアマゾン」としてネットフリックスが誕生する。目をつけたのはDVD。オンラインで注文を受け、DVDを宅配レンタルするサービスとしてスタートした。当時はパソコンもDVDプレーヤーも普及率が低く、顧客は一部のパソコンオタクだけ。5千万人のビデオレンタル会員を抱えるブロックバスターにはまったく及ばなかった。

 しかしネットフリックスがその豊富な品揃えと翌日配送システム、徹底したマーケティングや独自のアルゴリズムを使ったサービスで着実に会員を増やしていくと、次第にブロックバスターの顧客を侵食しはじめた。危機感をおぼえたブロックバスターは、自らもオンライン宅配DVDレンタルサービスに参入する。

 その頃になると時代の変化は明らかだった。もはや実店舗の時代は終わり、ネットの時代が来ていた。ブロックバスターにとっては、どうやって実店舗の顧客をデジタルサービスへと誘導していくかが課題になった。

 しばらくはブロックバスターとネットフリックスの間で知恵比べと我慢比べの時期が続いたが、やがて資金力で上回るブロックバスターがネットフリックスから顧客を奪い始める。2007年、ネットフリックスはブロックバスターとのトップ会談で敗北を認めた。今や動画配信で世界トップに立つネットフリックスだが、実はこの時に消えていてもおかしくなかったのである。しかしネットフリックスにとって奇跡が起きる。同年、筆頭株主とCEO(最高経営責任者)の対立によって、ブロックバスターの経営トップが交代したのだ。

時代に逆行しダウンロードにこだわり自滅

 ここで登場したのがジム・キーズだった。この新CEOはデジタルシフトを否定し、「実店舗への回帰」を掲げた。そして店舗に人を集めることに全力を注いだのである。キーズが目指したのは、DVDだけでなく、食品や飲料のほか、家電製品まであつかう「総合エンターテインメント施設」だった。

 この頃、業界で大きなテーマになっていたのは、映画のデジタル配信。「ダウンロード」型のサービスがことごとく失敗し、「ストリーミング」こそが本命であることが明らかになりつつあった。そのため、ネットフリックスはストリーミングへ一気に舵を切った。

 ここで致命傷となったのが、ジム・キーズCEOのITへの感度の低さだった。彼はダウンロードにこだわったのだ。しかもブロードバンド回線ではない。実店舗でのダウンロードである。店舗に置いた専用端末から、USBメモリにダウンロードするサービスを思い描いていた。キーズの構想はこんなものだった。

「将来、消費者はブロックバスター店にやって来て、店内のキオスク(自販機)で映画やゲームソフトを自分のUSBメモリにダウンロードするようになるでしょう。USBメモリの代わりにビデオ再生可能なデバイスにダウンロードしても構いません。こうすれば自宅のブロードバンド回線を使う必要もなくなるのです」(同書319頁)

 今となっては笑うしかない発想だが、当時でも人々を唖然とさせるには十分だった。同社のデジタルシフトを担っていた幹部や技術系社員は、キーズのアイデアを聞いて愕然とした。必死の抗議も聞き入れられないことがわかると、彼らの多くは退社の意思を固めた。そして彼らはブロックバスターの持ち株を売り、なんと長年のライバルだったネットフリックスの株を買ったのである。

 その後、2010年にブロックバスターは倒産した。最大の競争相手を倒したネットフリックスは、それまで我慢していた念願の海外進出を開始して、一気にそのビジネスを拡大させた。そして動画配信で世界のトップに躍り出たのである。

 ちなみにこのジム・キーズは、くしくも米セブン・イレブンの元CEOであった。

デイリー新潮編集部

2019年7月6日掲載

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