日本の輸出規制、韓国では「単なる報復ではなく、韓国潰し」と戦々恐々

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韓国を潰す気だ

 韓国では「怪しい国に認定された」との自覚が増している。中央日報は「日本『半導体素材の軍事転用に注目』…韓国を『安保憂慮国』扱いか」(7月3日、日本語版)で「エッチングガスが韓国の最終需要者に届いているのか、第3者に渡っていないか、民生用に使われているのかを綿密に管理する、と日本政府が表明した」と書いた。

 左派系紙、ハンギョレはさらに踏み込んだ。「日本、経済報復を超え、国際貿易秩序における“韓国排除”狙うか」(7月3日、日本語版)である。左派系弁護士団体に所属するソン・ギホ弁護士の以下のコメントを紹介した。

・韓国に対する部品輸出に安保の憂慮があるという根拠が全くないのに、法を改正して日本の貿易秩序において韓国の地位を根本的に変えようとする措置だ。
・日本の強硬派たちが強制徴用に対する一時的報復のレベルを超えて、国際分業秩序から韓国を排除し、韓国の経済成長を抑制すると共に、安保憂慮を口実にして南北間の接近を牽制しようとする長期的戦略のもと動いている。

 単なる報復ではなく、北朝鮮と手を組んだ韓国を潰すつもりだ――と読んだのだ。報復なら韓国が譲歩すれば止まる。だが、韓国を潰すつもりなら、対応のしようがない。

 米国が中国の通商上の不正を批判しながら中国製品に対する関税を引き上げ、西側のサプライ・チェーンから締め出そうとしているのと同じ構図である。

米国に助けてもらえない

 日韓が対立する時、韓国のメディアは必ず「米国に日本を諫めてもらおう」と言い出す。しかし今回は、そうした意見は全く見られない。理由は2つあるだろう。

 ちょうど今、米国が中国製品に対する関税引き上げを通じ、中国を屈服させようとしている。そんな時、「日本のWTO違反」を言いたてても、米国が話を聞いてくれるわけもない。

 もう1つは、韓国が米国からレッド・チーム――敵方と見なされ始めたことだ。4月11日にワシントンで開いた米韓首脳会談は実質2分間で終わった(「米韓首脳会談で赤っ恥をかかされた韓国、文在寅の要求をトランプはことごとく拒否」参照)。

 6月30日の米朝首脳会談は、板門店の韓国側施設で開かれたというのに、文在寅大統領は参加を拒否された。韓国は北朝鮮の使い走りと米国に見なされたからだ。

 北朝鮮からさえも韓国は一人前のプレーヤーとして扱われなくなった。6月27日には「蚊帳の外から口出しするな」と罵倒されてしまった(「北朝鮮が韓国に“仲介者失格”の烙印 それでも文在寅が続ける猿芝居の限界が来た」参照)。

 すっかり孤立した韓国は、常套手段である「日本を孤立させて圧迫する作戦」が使えなくなったのだ。

日米が組んで「韓国叩き」か

 日本の安全保障専門家には、今回の対韓制裁は発動前に米国と十分に打ち合わせたと見る人が多い。確かに、そう見える。

 朝鮮日報は「制裁の本質はサムスン潰し」と断じた。「<日本の経済報復>カギはEUV、サムスンの次世代半導体の工程を狙った」(7月3日、韓国語版)である。要約しつつ翻訳する。

・業界によると、日本が輸出を規制するレジストは次世代露光装置の「EUV(極紫外線)」タイプだ。DRAMの製造に使うレジストではない。
・サムスン電子はDRAM依存体質を改善するため98兆ウォンを投資し、ファウウンドリーと呼ばれる半導体の受託生産事業に軸足を移す計画だ。
・その必須の武器が5ナノ級の線幅の半導体を作れる「EUV」だった。が、日本の輸出規制によりファウンドリー世界1位、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)追撃が困難になる。

 米国は世界の企業に、中国の大手通信会社、ファーウェイ(華為技術)との取引をやめるよう呼び掛けている。だが、韓国企業は基地局などファーウェイの通信設備の購入を中止しないうえ、ファーウェイに対する電子部品の販売も続けるつもりだ。

 サムスン電子はファーウェイにDRAMを大量に売っており、取引を中断すれば経営上の打撃が大きい。しかし米国の要請を無視すれば、どんな報復を受けるか分からない。もちろん中国からも「米国の言いなりになるな」と圧力がかかる。

韓国は米中の間で板挟みとなり、戦々恐々としていた。そこに思いがけない日本からの横矢。言うことを聞かない韓国企業に対し、米国が日本の制裁を使って警告したとも受けとれる。

サムスンの挫折は韓国の挫折

 日本政府にそこまでの意図があるかは不明である。だが、サムスン電子の時価総額は韓国全体の20%前後を占める。「サムスンの挫折」は当然、「韓国の挫折」である。

 「対韓制裁」以降、サムスン電子の株は売られ続けた。7月4日の終値は前日に比べ550ウォン高の45950ウォンだったが、発表前の6月28日と比べ、2・2%安い水準だ。

 サムスン電子が下げると、ほぼ自動的にKOSPI(韓国株価総合指数)も下げる。するとウォンも下がる、というパターンに入るのが普通だ。際どい状況になってきた。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年7月4日掲載

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