池江璃花子を救うか? 液体ノリ「アラビックヤマト」が白血病治療の一助に

ライフ 週刊新潮 2019年6月13日号掲載

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 白血病と闘う競泳の池江璃花子選手に朗報かもしれない。東京大学医科学研究所と日本医療研究開発機構は5月29日、東大の山崎聡特任准教授率いる研究チームが白血病治療に必要な「造血幹細胞」の大量培養に成功したと発表。驚くべきことに、実験で使われたのは市販の液体ノリ「アラビックヤマト」だった。

「これが実用化したら、夢のような話です」

 こう語るのは血液・腫瘍内科専門の医師で、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏だ。

「造血幹細胞の培養には、非常に高度な技術が必要です。培養液はとても高価なので、白血病治療にはドナーの骨髄や臍帯血(さいたいけつ)移植に頼るのが一般的です」

 造血幹細胞の培養は難しく、1リットルでウン万円する培養液でもそれほどの効果を期待できないとも。それを山崎特任准教授は、百円均一の店でも買えるノリ「アラビックヤマト」で成功させたのだ。論文の共著者であり、理化学研究所で細胞バンクを手掛ける中村幸夫(ゆきお)室長が解説するには、

「高額な培養液も試したのですが成果が出ず、安価なポリビニルアルコールを試したら培養に成功した。山崎さんは“遊び心でポリビニルアルコールが主成分のアラビックヤマトを使った”と説明していました」

 ポリビニルアルコールの値段は、安いものだと1リットルで1万円以下で購入できる。驚いたのは、アラビックヤマトを製造するヤマト株式会社だ。広報担当者は、

「報道が先行していたので、事実関係を確認するために東大に連絡しました。本来の目的とは異なる使用方法ですが、病気に苦しむ方々を含めて社会貢献の一助になれることは社員一同大変喜ばしい限りであります」

 ちなみに、アラビックとは、昭和30年代まで使用していたアラビアゴムの樹液を主成分にした「アラビアのり」の名残だという。

 実用化のメドを中村室長に改めて聞くと、

「今後、人間の細胞も培養できるかの臨床実験を経て、実用化は5~10年後でしょうか。この方法なら、骨髄液の量が少量で済むのでドナーへの負担が減る。ひいては、ドナーの数も増えて治療薬も安価になると思います」

 東京五輪には間に合わずとも、池江選手だけでなく他の患者のために一日も早い実用化が望まれる。