川崎20人殺傷事件 「エリート標的」と「拡大自殺」に見る宅間守への崇拝

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

典型的な「拡大自殺」

「今回のケースは典型的な『拡大自殺』というものです。宅間事件とそっくりで、それをマネてやったのではないかと見ています」

 と分析するのは、精神科医の片田珠美氏である。

「人生に絶望して厭世観を抱き、自殺願望がある。ならば一人で死ねばいいはずが、社会に対して怒りを抱き、死ぬ前に復讐したいという思いがある。一人で死ぬのはいやだから無理心中のような形で他人を巻き込み、犯行後に自殺するケースが少なくありません」

 アメリカで発生したコロンバイン高校やバージニア工科大の銃乱射事件の容疑者も同様に自ら命を絶っている。宅間の場合も事件直後に、「自殺をしたい。死にきれないから、死刑にしてほしい」と口走っていた。自殺こそ図らなかったが、死刑判決後に控訴を取り下げている。更に早期の執行を訴え、実際そのようになったのだった。

「無差別殺人は大きく二つに分かれます。秋葉原通り魔事件のように不特定多数を狙うケース、宅間や今回のように特定多数をターゲットにするケース。池田中に入学を願ったが叶わなかった宅間は、そのエリートの卵を羨望のまなざしと敵意とがないまぜになった形で見ていたのです」(片田氏)

 今回の岩崎も宅間と共通し、小さくて弱い者を痛めつけたいという憎悪と、将来性豊かな彼らへの羨望というアンビバレントな感情があったと見るのだ。

 一方で、犯罪心理学者の森武夫氏は、

「犯行が意図的なのは包丁を複数持っていた点からも明らかです。1本だけだと血糊で包丁が使えなくなりますから」

 と、その計画性に注目する。再び前出の片田氏はこんな指摘をする。

「長期に亘る欲求不満、他責的(他人のせいにしたがる)傾向、破壊的喪失、外部からのきっかけ、社会的心理的孤立、大量破壊のための武器入手。こういった項目が幾つか揃うと、大量殺人が引き起こされる可能性が高くなるのです」

 長らく脱却できないデフレ、拡がる格差がそうさせるのだろうか、宅間は死してなお、不満分子の憎悪を具体化し、取り憑いて破壊に駆り立てているようだ。岩崎を第二の宅間と呼ぶなら第三、第四の宅間が登場しかねず、無辜の被害者がまた生まれ続けることになるのか。

週刊新潮 2019年6月6日号掲載

特集「登戸『スクールバス』襲撃 『エリートの卵』だから狙った51歳引きこもりの『宅間守』崇拝」より

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。