異性愛の恋愛ドラマが稚拙に見えるほど胸を突く「腐女子、うっかりゲイに告る。」

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 今、テレビドラマが端境期(はざかいき)に来てるなあと思う。昭和から脈々と続く予定調和とベタな展開をどこかで愛でる自分もいるが、予想をはるかに超えた設定と感情の交錯を取り入れた新しいドラマにも心奪われている。令和の時代は、後者のタイプがもっと増えてくると思いたい。要するに、制作側の人間が世代交代する時期なのかもしれない。「昔取った杵柄(きねづか)強硬派」「昭和ドリーム固持派」「定番礼賛派」「大先生&大スター&大事務所接待派」が減れば、テレビドラマは大きく変わるような気がする。そんなことは不可能と思うかもしれないが、可能にしたのがやはり皆さまのNHKだった。「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」は、今期で一番新しくて鋭くて切ない、後者タイプのドラマである。

 BLをこよなく愛する腐女子高校生を藤野涼子、親にも友達にもゲイであることを言わずにやり過ごしている男子高校生を金子大地が演じる。藤野がBL本を購入しているところを金子に見られたことから、ふたりの距離が縮まる。縮まるどころか「付き合う」ことになるのだが、金子が抱える葛藤を藤野はまだ知らない。

 同性愛者であることを隠して生きる人はたぶん想像以上に多い。「自分の周りにはそういう人がいないから」と思っている人も多い。藤野も「ゲイなんて現実にそうそういない」と思っている。いないのではなくて、言えない、あるいは言わないだけなのだ。

 金子は自分がゲイであると自覚しているし、年上の妻子持ちである彼氏(谷原章介)もいる。要は不倫だ。SNSで知り合ったゲイの友達(その名をファーレンハイト)にはチャットで何でも相談できるのだが、学校では誰にも言っていない。

 金子はシングルマザーの母(安藤玉恵)に育てられた。昼も夜も働いて自分を育ててくれた母にも、もちろん言えない。異性愛が大前提で話をする世界で、ゲイの高校生が生きるのはどれだけつらいかが伝わってくる。

 彼氏の谷原のように、異性愛者を装って「普通に」家庭を築きたいと思っている金子。それで藤野と付き合うことにしたのだが……。

 異性愛の恋愛モノが稚拙に見えるほど、このドラマは胸を突く。正直しんどい。金子の状況も相当しんどいが、藤野の今後を考えるともっとしんどい。好きになった男子とセックスできないんだろうな、そしてゲイだと知って落ち込むんだろうな、と。でもそういう考え方自体が古いと思い直す。たぶん予想を超える展開になるはず。固定観念をばっさり斬り捨てて、心地よく裏切ってくれそうなニオイがするのだ、このドラマは。

 私自身、結婚とか家族に関する固定観念や呪縛は払拭したつもりでいるのだが、恋愛とセックスは一緒くたにしがちで、狭量というか、旧人類なのかもしれない。

 恋愛ドラマで言えば、理想論と女の我慢で紡がれてきた昭和、男女関係に絶望した平成という印象がある。では令和は? 既存の枠に当てはまらない新しい人間関係が始まるのでは? 令和元年に相応しく、このドラマがそう思わせてくれる。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年5月23日号掲載

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