孤独死した「飯島愛さん」 大ベストセラーが生んだ悲劇を振り返る【平成の怪事件簿】

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覚せい剤で警察に上申書!

 結局のところ彼女の死因は何だったのか。発見後、遺体から覚せい剤の陽性反応が出て、警察を色めきたたせる騒ぎがあった。ある警視庁関係者はこう語る。

「遺体発見現場での簡易鑑定でシャブ(覚せい剤)の反応が出たのは事実です。現場に検査キットが持ちこまれ、渋谷署の検視官がその場で鑑定した結果、反応が出たのです。それで警視庁の関係者の間では“おぉー”と騒ぎになった」
 
 薬物スクリーニング検査キットは、尿からコカイン、大麻、モルヒネなど8種類の薬物を同時に検出することが可能な試薬である。陽性反応の場合、10分あまりで赤色の線が検出された薬物のところに浮かび上がる。彼女の遺体を鑑定した結果、まさに試薬の覚せい剤の部分に赤色の線が浮かび上がったのだ。
 
 だがなぜ現場に手際よく検査キットが持ち込まれ、鑑定が行われたのか。その理由は、彼女にドラッグ使用が疑われる“事件”があったからだ。
 
 08年1月、彼女は1人で渋谷署にやってきて、「私、覚せい剤をやってるの」と“自供”したのである。署員が驚いたのは言うまでもない。話す内容に意味不明の部分があり、また動作がフラフラしていることから、渋谷署では本人を留め置き、すぐに捜査に着手した。

 著名な芸能人ということもあり、警視庁本庁にも報告が行き、組織犯罪対策部組織犯罪対策第5課が動いた。「組対5課(そたいごか)」と呼ばれる、薬物対策の専門部署である。彼らは任意で飯島愛本人の事情聴取を行い、これはかなりの可能性で覚せい剤使用の疑いがあると判断した。そこで立件に向け、まずは上申書を書かせ、覚せい剤の使用状況を明らかにさせたのである。

「いつごろからやっているのか、現在の使用状況はどうなのか、またどこで誰から購入したのか、その入手ルートなども克明に自白する、かなり詳細な上申書だったのです」(警視庁関係者)

 その上申書に基づいて本人の自宅に家宅捜査がおこなわれた。
 
 しかし、である。ガサ入れで、違法薬物は発見できなかった。また本人の尿検査も行ったが、覚せい剤などの薬物反応は出なかった。
 
 その上申書があまりにも詳細で、具体的かつ説得力があったため、捜査員たちは狐につままれたようだったという。結局、物的証拠が何も出なかったため、逮捕もされず、書類送致もされず、捜査は終結した。
 
 だがこの騒動は署内でずいぶん噂になった。そのことがあったため、今回変死事件が起きたとき、もしや薬が関係しているのではないかと疑われ、現場に検査キットが迅速に持ち込まれたというわけである。
 
 今回は現場の検査キットで反応があったため、渋谷署の捜査員らは、“やっぱりやっていたのか”と色めきたった。またもや組対5課が動員される事態となった。しかし、その後、行政解剖が行われ、本鑑定も実施されたが、今度も最終的には、覚せい剤などの薬物反応は出なかったのである。また、自宅から覚せい剤の現物や注射器も発見されなかった。結果的にいえば、刑事訴追を行うべく、手続きを取るための証拠は何も出なかったのである。

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