「ドクター・キリコ」の毒物宅配事件 犯人も青酸カリで命を絶った理由【平成の怪事件簿】

社会2019年4月25日掲載

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 その人が死んだら、私も死にます――。青酸カリを送りつけた男は、自らもその劇薬で命を絶った。のちに「毒物宅配事件」「ドクター・キリコ事件」と呼ばれる出来事は、メディアや警察が、本格的にインターネット世界に向き合った初期の事例だと言っていいだろう。(駒村吉重 ノンフィクション・ライター)

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 その第一報が流れたのは、クリスマスのイルミネーションがまばゆい、平成10年12月24日だった。

 記事によれば、この10日ほど前、東京都杉並区に住む女性が、宅配便で届いた青酸カリのカプセルを飲んで死亡していた。送り状にあった「草壁竜次」を名乗る送り主から、「ほか6人にも同じカプセルを送った」との事情を電話で明かされた警視庁は、緊急の捜査態勢をしき男の身元割り出しに全力を挙げていた。

 ほどなくニュースを目にした知人の通報により、「草壁」は、札幌市内に住む27歳の塾講師と判明する。しかし彼もまた、青酸カリを仰ぎ他界していたのだった。

 やがて、彼がインターネットの自殺系サイトで、「ドクター・キリコ」と称して自殺志願者の相談役になっていた事実が浮かび上がる。加えて、カプセルを入手したらしい人物のなかに、薬物中毒で死亡した別の女性がいたことまでも分かってきた(ただし、彼女は睡眠薬を服用)。

「男は薬局などで青酸カリを計510グラム購入。(中略)自殺に関する相談や毒物の購入希望を受け付けていた」(平成11年2月12日付、北海道新聞)「キリコ 自殺志願者の“教祖”に」(平成10年12月28日付、毎日新聞)などの記事が、大方のメディアの論調を代弁していた。草壁は、劇毒のネット販売で荒稼ぎした闇商人、あるいは仮想と現実の一線が見極められない倒錯した人物と見なされた。

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