まだ「昭和」から抜け出せない小中高校は「令和」で変われるか?

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 元号は間もなく「平成」から「令和」に替わる。

 その中で、日本の学校、特に小中高校は、いまだに「昭和」の要素が色濃く残されたままだ。

「学校」だけアナログのまま

「平成」の30年間に、学校の外の世界、つまり日常生活や学校以外の職場では、大きな変革があった。大変革の1つが、アナログからデジタルへの転換だ。

 筆者はたまたま、昭和から平成に元号が替わる年に学校を出て、当時の通商産業省に就職した。役所に入った当初、文書の多くはまだ手書きだった。部署に1台だけ大きな共有コンピュータがあり、特に大事な文書は、そこで手書きからワープロに清書していたものだ。それから数年のうちに、職場で1人1台パソコンが支給されるのはあっという間に当たり前になった。日常生活でも、パソコン、タブレット、さらにパソコン並みの機能を有するスマホを持ち歩くのは当たり前になった。

 ところが、学校だけは、いまだに「昭和」だ。小学校では、パソコンは生徒5.6人に1台の割合でしか置かれていない(2018年全国平均)。しかも、学校にスマホなどを持ち込むこともたいていは禁止される。幼児期からデジタル機器に慣れ親しんだ子供たちが、突如、「昭和」にタイムスリップさせられる。これが日本の学校だ。

過疎地でも「対面教育」を重視

「平成」の30年間に、通信手段も大きく変わった。「平成」の初期から、携帯電話が普及した。音声だけでなく画面もセットのテレビ電話も普及した。今や、国内外から、遠く離れた場所の会議にテレビ会議方式で参加するのはふつうのことだ。教育の分野でも、予備校では、大教室に生徒を集める代わりに、テレビ会議方式が広がり、日本中どこにいても有名講師の授業が受けられるようになった。英会話スクールでは、先生と生徒をテレビ会議方式でつないで個別指導を行う方式が広まった。

 ところが、ここでも、学校だけは別だ。テレビ会議方式は学校ではほとんど使われない。学校教育法上、授業は教室で「対面」で行わなければならない、とされてきたためだ。

 過疎化の進む地域などでは、学校の規模が小さく、すべての科目の先生をそろえていないことも少なくない。こうした場合、テレビ会議方式の遠隔授業で、画面の向こうから先生が教えてくれればよさそうなものだが、これは認めない。代わりにどうしているかというと、他の科目の先生が教えている。中学・高校の場合は教員免許は教科ごとだから、本来は、科目免許のない先生が教えることはできないはずだが、「免許外教科担任」という制度で特例的に認めているのだ。

 特例といっても、その件数は、2016年度で中学では7190件、高校では3760件に上る。しかも、「免許外教科担任」という制度は、元々1953(昭和28)年、戦後間もなく教員が足りていない状況下で、「当分の間」の暫定措置として設けられたものだ。それにもかかわらず、こんな状態が数十年間続いている。

 こんなことはもうやめて、科目免許のある先生に画面の向こうから教えてもらうほうがよっぽど良いのでないか?

立ちふさがる「岩盤規制」

 こうした議論は、政府内でもずっとなされてきた。私が委員を務めてきた規制改革推進会議は、時代にあわなくなった規制、不合理な規制などを改革するための政府の会議で、遠隔授業や免許外教科担任の問題もさんざん議論してきた。しかし、なかなか進まない。学校教育は「対面」でなければならない、との「昭和」のドグマが強固に立ちふさがるからだ。

 高校に関しては、2015年に一歩前進し、いちおうテレビ会議方式の遠隔授業が解禁された。しかし、実際にはほぼ利用されていない(2017年度は35校のみ)。これは、二段・三段構えでさらに規制・制度の問題があって、例えば教材をデジタルで生徒に共有することができないなど、実質的に遠隔授業ができないような仕組みになっているためだ。

 しかも義務教育では、そこまでもたどり着いておらず、高校並みの解禁すらまだなされていない。

 こうして、学校は、ずっと「昭和」にとどまってきた(規制改革の議論、その背景と構造などについては、拙著『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』に記載しているので、ご関心あればご覧いただけたらと思う)。

中学でも「遠隔教育」スタートへ

 だが、元号が「令和」に切り替わろうとする中、ようやく、少しだけ明るい兆しがみえてきた。

 文部科学省が、柴山昌彦大臣のリーダーシップのもと、3月末にまとめた「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(中間まとめ)」に、下記2点が盛り込まれた。

■中学での「遠隔教育特例校」を2019年度から設け、義務教育での遠隔授業をスタートする。

■2023年度までには、希望する学校すべてで遠隔授業を実施できる環境を整える。

 これまでの状況から考えれば、大前進と言える。6月までにさらに検討を深め、「最終まとめ」がなされる予定だ。大いに期待したい。

 ただ、あまりにも遅すぎたということも言っておかないといけない。遠隔授業は、あくまで、「昭和」からの脱却だ。学校の外の世界ではすでに「平成」の初期に起きていた変革への、遅ればせながらの追随だ。

 学校の外の世界では、その先でさらに、AI(人工知能)やロボットの飛躍的な進歩などが起きている。AIで人の仕事がなくなるなどということまで言われている。ともかく、「令和」の時代に、社会は新たな大変革期に突入する。もちろん、学校もさらなる変革が求められるはずだ。

AIを利用した教育

 第1に、テレビ会議なんて枯れた技術の活用で満足している場合ではない。さらなる最新技術を活用して、教育の質と精度をあげていく必要がある。

 例えば、これまでの学校では、30~40人ぐらいの生徒を、1人か2人の先生が教えることになっていた。先生は、教室全体の平均にあわせて授業をするしかなかった。だから、落ちこぼれる生徒も出てきたし、逆に、先生の話が物足りないと感じる生徒が出てきた。

 現在のAIの水準ならば、こうした従来の学校の限界を根本的に乗り越えることが可能だ。AIを活用して生徒個人ごとの学習プログラムを作り、個人の理解度を確認しながら、次の教材に進むように設計できるからだ。従来落ちこぼれていた生徒には、理解できるまで繰り返し教える。先に進みたい生徒にはどんどん先のことを教える。同じ算数などの科目を教えるにも、これまでよりずっと、効果の高い教育が可能になるはずだ。

世界最先端を目指して

 第2に、何を教えるのかの中身も変えていかなければならない。10年後に社会に出る子どもたちは、AIやロボットにはできない仕事をしないといけない。親の世代が学校で教わった科目の知識を頭に詰め込んでも、社会で何の役にも立たない可能性が高い。

 世界を見渡せば、そんな問題意識で、未来仕様の学校を作る試みがあちこちで動いている。例えば、「フェイスブック」を創業したマーク・ザッカーバーグが出資して2013年に創設された「Alt School」では、「次世代の初等教育」を目指し、学年の概念を取り払って、生徒個人の強みや関心に応じた個別AIプログラムを提供している。米半導体大手「クアルコム」の創業者らが2000年に創設した「High Tech High」では、現場での社会課題の解決などの教科横断プロジェクトに取り組み、ソフトスキルを身につけることに力を入れている(参考:平成30年7月24日規制改革推進会議第42回投資等ワーキング・グループ資料1-1)。

 こうした未来の教育に向けた議論も、政府内で始まりつつある。

 規制改革推進会議でも、3月11日に公開ディスカッションを開催し、最先端の現場で教育改革に取り組む識者や、文科省・総務省・経済産業省などの参加のもと、未来の教育を議論した。

 私も委員として参加したが、強調したのは、もう階段を1段ずつ上っている暇はない、「世界最先端」に向かいましょう、ということだ。つまり、「昭和」をようやく抜け出して満足している場合ではない。階段を飛ばし、学校を一気に「令和」仕様にバージョンアップして、世界に伍していかなければいけない。そうでなければ、日本の子どもたちが世界で立ち遅れることになりかねない。

 文科省の人たちも、最初は「すぱっとお答えするのは難しい」などとはぐらかしていたものの、議論を経て、最後は「世界一を目指します」と約束してくれた。ぜひやってほしい(参考:平成31年3月11日規制改革推進会議公開ディスカッション)。

民間でも注目すべき動き

 民間でも注目すべき動きがある。「角川ドワンゴ学園」が運営する通信制高校「N高等学校」(通称N高)は、開校3年で在籍生徒数が9000人に達し、今や日本最大級の高校になりつつある。今年4月からは、「中等部」もスタートした。授業やレポートでは徹底してウェブを活用し、他方で、「eスポーツ部」や「起業部」などの部活動も充実。フィギュアスケート選手の紀平梨花さんらも在籍する。

 堀江貴文さんらが2018年に開校した通信制高校「ゼロ高等学院」では、宇宙ロケットの開発、寿司職人として技術を身につける機会の提供など、座学ではなく、さまざまなプロジェクトに現場で参画させることに重きをおく。

 いずれも、通信制の枠組みとウェブなどの技術を活用し、従来の科目授業を提供するとともに、生徒個人がやりたいことで思いきり力を伸ばす機会を提供することが特徴だ。こうした新たな学校が、未来の学校の地平線を切り拓いていくのではないかと思う。

 もっとも、そんな中で、政府の教育再生実行会議のワーキング・グループでは、「広域通信制高校では……不健全な運営実態が見られ、問題がある」、「広域通信制高校が……Society5.0 とか個別最適化にふさわしい高校の在り方であるなどと短絡的に捉えられはしないかと危惧しております」などという議論もなされていたりする(参考:平成31年2月21日第6回教育再生実行会議高校改革ワーキング・グループ議事録)。

 明るい兆しもある一方で、「昭和」の議論はまだまだ残る。一刻も早く、「令和」時代の議論をするべきである。

原英史
1966(昭和41)年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問などを務める。著書に『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』、『官僚のレトリック』など。

Foresight 2019年4月22日掲載

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