韓国人男性が日本のAmazonに「★1つ」のレビューを投稿しまくる珍現象はなぜ起きたのか

国際 韓国・北朝鮮 2019年4月19日掲載

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そんなに男性社会に不満があるなら、女も軍隊に行くべき

 すでに韓国ではそうした葛藤の先例がある。この翻訳版の解説や書評でもたびたび言及されている「江南駅通り魔事件」という事件である。2016年5月17日の深夜、ソウル南部・江南区の歓楽街で、カラオケ店のトイレに潜んでいた34歳の男性が見ず知らずの女性(23歳)を凶器で刺して殺害するという凄惨な事件が起きた。逮捕された犯人が「女性に馬鹿にされたことを根に持ってやった」と語ったことや、犯人がトイレに入って来た男性らを狙わず、か弱い女性のみを選んで殺害したことが明らかになったことで、「女性嫌悪者の犯行」と見なされ、女性らによる大々的な追悼運動が行われた。

 確かに痛ましい事件であり、被害者が女性であったために犯人に殺害されたことも事実だが、犯人が本当に「女性嫌悪者」だったのかについては、韓国でもさまざまな意見がある。実は、捜査の過程で犯人が統合失調症を患っており、「女性から馬鹿にされた」という被害妄想に駆られて犯行に及んだ可能性が高いことが明らかになっていた。

 しかし、そうした背景はあまり顧みられることはなく、追悼運動は次第に女性嫌悪糾弾運動へと発展していった。それに一部の男性(保守系ネット掲示板ユーザー)らが猛反発。「被害者意識に駆られた女性たちが事件を拡大解釈している」「男という理由だけで潜在的犯罪者扱いされるのは我慢ならない」と追悼集会に押しかけ、衝突を繰り返した。この事件は『82年生まれ、キム・ジヨン』をベストセラーに押し上げる原動力になったとされているが、同時にこの作品の男性描写に対する警戒を生み出すことになったことも事実である。

 また、韓国では「男なんだから、我慢しろ」「男のくせに、不平不満や泣き言をいうな」という男性に対する期待過剰が根強くあり、これが「男はつらくても不満を言えないのに、女だからって不満ばっかり言うな」という男性の反発につながっているのではないか、という穿った分析もあった。特に韓国人男性には「兵役」という女性にはない義務がある。「そんなに男性社会に不満があるなら、(イスラエルのように)女も軍隊に行くべき」という意識をもつ韓国人男性が存在するのも事実だ。

 加えて韓国は「無限競争社会」と言われるほどの激烈な競争社会。幼少時からの受験競争に加えて、大学卒業後の就職競争、職場での実績競争、子女の教育競争など、韓国で韓国人として生きていくだけでも極めてしんどい。そうした状況で「しんどいのは女だけじゃない、男もしんどいんだ」と叫ぶ韓国人男性がいても特段おかしなことではない。もちろん、しんどい中でも、「女のほうがしんどい」というのが事実に近いのだろうが。

 この作品が今まで韓国でほとんど語られてこなかった女性に対する差別や偏見、生きづらさを広く公論化したことは否定しがたい事実である。そして、そうした差別や偏見、生きづらさは国を問わず普遍的なものであり、この作品は韓国以外の国でも広く共感を得るだろう。ただし、韓国国内では、この作品に対する男性からの否定的な評価も少なからず存在するのも事実。韓国国内での新たな葛藤の火種となるのではないかと憂慮する声もある。

 売れている話題作には否定的な評価が慎まれる傾向があるが、そうした韓国内での批判的な評価をも直視し、その原因を分析することも、「女性の生きづらさ」を多少なりとも解消する方途の一つになるのではないだろうか。

水野俊平(みずの・しゅんぺい)
1968年北海道生まれ。天理大学外国語学部朝鮮学科卒、全南大学校大学院国語国文学科博士課程修了。同大の講師などを経て、現在は北海商科大学商学部教授。専攻は韓国語学。

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