習志野の「サイン盗み」はあったのか――エースに揺さぶり当然? 両監督の主張

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 バッターボックスに立つ打者の動きから、その捕手はある疑念を抱いた。

「こいつ、はじめから外角とわかってたような足の運びをしやがったな?」

 試しにミットをインコースに構えると、二塁ランナーが左手をパッと開く。そこでアウトコースにミットを動かしたところ、今度は右手を開いたのだ。

「タ……タイム!」

 マウンドに駆け寄った捕手は投手にこう告げる。

「あのイガラシとかいうのがセカンドからコースをバッターに教えてるぞ」

 先日、現役生活に終止符を打ったイチローも少年時代に夢中になったという、野球漫画の名作『キャプテン』(ちばあきお・著)。1972年に連載がスタートしたこの作品は、「墨谷二中」野球部の成長と活躍を描く。冒頭で引用したのは、3代目キャプテンのイガラシが「サイン盗み」でライバル投手に揺さぶりをかけるシーンだ。

 翻って、3月23日に開幕した平成最後のセンバツ高校野球――。

 ベスト8をかけて激突した習志野(千葉)と星稜(石川)との一戦は、下馬評を覆し、習志野が「3‐1」で勝利を収めた。

 習志野にしてみれば、ドラフトの目玉候補にも挙げられる星稜のエース・奥川恭伸投手を攻略しての大金星。観客席からナインを強烈に後押しする吹奏楽部の「美爆音」も注目を集めた。その後、センバツ初の決勝進出を果たした古豪は、まさに今大会の台風の目だった。

 だが、ご承知の通り、この試合で取り沙汰されたのは全く別の「波乱」である。

 試合翌日のスポーツ紙の紙面には、〈サイン盗み疑惑「証拠ある‼」星稜林監督前代未聞怒鳴り込み〉〈サイン盗んだ 星稜監督 鬼の形相で激怒〉などという仰々しいタイトルが躍った。

 スポーツ紙記者がこの一戦を振り返るには、

「問題となったのは4回表の攻防です。1死二塁というところで、奥川投手とバッテリーを組む捕手の山瀬君が球審に二塁ランナーの動きがおかしいと指摘した。その後、同点に追いつかれ、なおも2死満塁の場面で、今度は星稜の林和成監督が“セカンドランナー!”と声を荒げた。これを受けて4人の審判が協議したものの、結局は二塁ランナーに対し、“紛らわしい仕草はしないように”と注意するに留まった」

 それでも林監督の怒りは収まらず、

「試合終了後、習志野の控室に乗り込んで小林徹監督に猛抗議したのです」(同)

 先の『キャプテン』では、頭脳プレーのひとつとして描かれていた「サイン盗み」だが、実は、高野連は98年にこれを禁止している。高校野球の「周知徹底事項」にも、〈走者やベースコーチなどが、捕手のサインを見て打者にコースや球種を伝える行為を禁止する〉と明記されているのだ。ただし、罰則規定は存在しない。

「昭和の高校野球ではサイン盗みは当たり前の戦術でした。サイン盗みは全野球部で解禁するか、または禁止するかの二者択一しかありえない。とはいえ、高野連が禁止した98年以降、私たちは根絶に向けて努力を重ねてきたわけです。時代を逆戻りすることが良いとは思えません」

 そう語るのは他ならぬ林監督ご本人である。

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