新元号で歴史に名を残したい安倍総理の“野望” 背景に“なぜ中国由来”の声

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前回に倣えば…

 ところで、日本で最初の元号である「大化」から、現在の「平成」まで247。このうち、出典が確認できるのは77あり、その典拠はすべて中国の古典(漢籍)だという。皇室制度に詳しい所功・京都産業大学名誉教授が言う。

「漢字という表意文字を組み合わせて新時代にふさわしい元号案を考える出典は国書でもよいと思います。その場合は正史の『日本書紀』や、勅撰漢詩文集の『凌雲集』『文華秀麗集』『経国集』なども候補になりえます。考案者として日本の古典に精通した歴史家や国文学者が選ばれ、結果的にその案が採用される可能性も決して少なくないと思います」

 実際に今回、政府が考案を依頼した専門家の中には、漢文学者や東洋史などの歴史学者以外に、複数の国文学者が含まれていて、すでに原案も提出済みだという。さる官邸関係者によれば、

「国文学者への依頼は、安倍総理たっての希望でした。“元号の出典は漢籍とする”といった規定はもちろんありませんが、結果的に現在まで、国書に由来する元号は採用されてこなかった。それもあって、総理はかねて『新元号は日本で書かれた書物をもとにしたい』と口にしていたのです」

 もっとも、過去にこうした試みがなかったわけではない。昭和天皇ご不例のさなか、極秘で元号選定準備を進めていたのは、当時内閣内政審議室長だった的場順三氏である。

「私がその任に就いたのは85年でしたが、前任者からの引き継ぎで国書に通じた先生に考案を依頼していました。ところがその方が亡くなったため、新たに国文学が専門の市古貞次・東大名誉教授に依頼し、引き受けてもらったのです」

 が、その案は最終候補には残らなかったという。

「国書からよい意味を持つ漢字を抜き出すのは容易ではありませんでした。当時、国文学では『源氏物語』『徒然草』『枕草子』などが研究対象となることが多かったのですが、宮中の日常や恋愛、あるいは随想から有用な文字を選ぶのは非常に難しい。また企業名や商品名などで、国書出典の漢語の方が日本で俗用されている可能性が高いから大変です。俗用が後から判明すれば、皇室の尊厳にも傷がつきかねません」

 それでも前回とは、国書の位置づけは大いに異なる。すなわち総理の“肝煎り案件”だからである。

 的場氏が続けて、

「『平成』は、東洋史が専門の山本達郎・東大名誉教授の案でした。このほか最終案として、中国文学の目加田誠・九州大名誉教授が考案した『修文』と、中国哲学の宇野精一・東大名誉教授の『正化』が最終候補に残りましたが、89年1月7日に有識者懇談会を迎える前に、竹下総理や小渕官房長官との間では“平成でいこう”という暗黙の了解がありました。だから私は懇談会で『修文と正化はイニシャルがSとなり、昭和と重なるので平成がいいのでは』と、議論を誘導していった。元号とは政府が決める、つまり決定権は内閣にあるわけで、周囲の意見を聞く一方、時には総理がリーダーシップを発揮し、そこに導いて決断するのも一つの手法だと思いました」

 その誘導役を担った的場氏の実例に倣えば、今回も総理の意向が強く働くであろうことは自明の理――。

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