ピエール瀧事件、コカインの年間押収量は覚せい剤の約16分の1 日本の特殊事情を解説

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ピエール瀧の入手ルート

 それではコカインで逮捕された6人全員を列挙してみる。

 15年の高部あい(30)、10年の田代まさし(62)と「JAYWALK」のボーカル・中村耕一(68)、01年のカルーセル麻紀(76)、93年の角川春樹(77)、90年の勝新太郎(1931~1997)――という具合だ。このうち高部あいとカルーセル麻紀は、起訴されていない。

コカインと覚せい剤による逮捕者数、この違いは何が原因なのだろうか?

「コカインは世界的には高価な薬物として知られています。アメリカで高純度なものになると1グラムで9万円近くまで跳ね上がります。ハリウッド映画で吸引のシーンが出てくる影響などもあり、コカインは富裕層が好むドラッグとして知られています。一方のわが国は覚せい剤の需用が高いため、コカインはそれほど人気がありません。末端価格は1グラムで概ね3万円、高くても5万円というところでしょう」(同・瀬戸氏)

 マーケティング上、価格が安いことはセールスポイントになる。実際、アメリカでは“低価格で低品質”なコカインが開発され、貧困層に依存者が蔓延した。

「80年代、アメリカのスラム街を中心に、不純物が多い代わりに安価な“クラック・コカイン”(フリーベースコカイン)が大流行しました。常習した女性が出産し、赤ちゃんが低体重や精神遅滞、脳性マヒ、心臓などに先天的欠損を持つといったケースが確認され、大きな社会問題と化しました。世にいうコカインベイビー問題です(同・瀬戸氏)

 だが、アメリカのように旺盛な需要があるために低価格の“商品”が開発されるのと、日本のように需用がないために価格が抑えられているのとでは、意味が真逆だ。

しかも違法薬物は密輸が大前提。リスクを負う運び屋は、人気の覚せい剤を日本に持ち込み、大金を手に入れようとする。安いコカインを扱っても利益に乏しい。

 日本の税関では、覚せい剤の取り締まりが主流であり、コカインは“傍流”とさえ言える。財務省の広報資料を基に、覚せい剤とコカインの密輸摘発件数と、押収した薬物の量をグラフで比較してみよう。その差は驚くほど違う。

 5年間の押収量を合計してみると、覚せい剤は4787キログラム。一方のコカインは301キログラムに過ぎず、その差は約16倍になる。

「日本では覚せい剤が浸透していますから、知人に誘われて使用するケースも覚せい剤と大麻が大半を占めます。しかし、コカインの使用が増えていることを示すデータもあります。コカインの所持や使用による摘発者は13年に50人を下回りましたが、17年には150人と3倍を超えました。日本でもコカインの人気が出つつある理由として、2点が考えられます」(同・瀬戸氏)

 第1点目として、瀬戸氏は“多剤乱用”を挙げる。昔は、大麻だけ、覚せい剤だけ、という常用者が多かったのだが、近年は手当たり次第に乱用する輩が増えているのだ。

「第2点は、インターネットを用いた売買のボーダレス化です。日本では90年代にイラン人グループがコカインを売りさばくようになり、摘発が一気に増えました。最近はナイジェリア系など海外の密売組織が、“シノギ”として東京の新宿や六本木、大阪のミナミなどで密売しています。ネットを悪用すれば、日本語が話せない外国人でもコカインを売りさばけます。今のところ日本の暴力団はコカインに関わってはいませんが、覚せい剤に代わる薬物として躍り出る危険性は、決して低くはありません」(同・瀬戸氏)

 ピエール瀧容疑者がコカインを誰から手に入れたのか、いわゆる入手ルートの解明も期待されるのは、こういう背景があるからなのだ。

週刊新潮WEB取材班

2019年3月15日掲載

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