大阪「ダブルクロス選挙」、維新の“奇策”はどこが問題か ロシアじゃあるまいし…

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「橋下仕込み」の恐るべき奇手

 さて、今回、注視すべきは、維新と公明との喧嘩ではない。市長だった吉村氏が府知事選に、府知事だった松井氏が市長に立候補する、「入れ替わり出馬」のほうだ。関西メディアは「たすき掛け選挙」「クロス選挙」などと呑気だが、実に凄いやり方だ。公選法上、もし入れ替わらずに出馬すれば、当選しても在職期間は残りの任期まででの半年ほどしかない。暴言騒動で任期切れ直前に辞職し、出直し選挙に立候補した兵庫県明石市の泉房穂前市長(55)も、当選しても残り任期のみで、4月の統一地方選で再度の選挙となる。このため「任期切れまで待つべきだった。税金の無駄遣いだ」との批判にもさらされている。大阪でも辞職してそのままの位置での当選なら、任期は12月または11月までしかないが、入れ替わって当選すれば、任期は当選から新たに4年間となる。「すぐに再選挙をしなければならない税金の無駄遣い」の批判もまぬがれ、知事と市長を交代しながらの長期政権になってゆけば、ひいては多選批判もかわせる。

 だが、これがまかり通れば、例えばだが、北海道知事と札幌市長、神奈川県知事と横浜市長、愛知県知事と名古屋市長などがそれぞれタッグを組んで、市長選と知事選に交代しながら出馬できることになる。難癖をつけて任期切れ直前に辞職し、相手陣営の体制が整わないうちに選挙に入り、しかも対立候補よりも優勢に立つこともできる。そして、首長が選挙時期を恣意的に選べてしまうことになる。

 出直し選挙は、2002年、長野県の田中康夫知事(62)が、ダム建設問題で議会とこじれて不信任決議が可決されたため、「民意を問う」と任期を残して失職を選択し敢行したことがあるが、今回の公明の「裏切り」が「民意を問う」ということになっているとは思えない。

 辞職後の会見で大阪朝日放送(ABC)の記者でコメンテーターの木原善隆氏(52)が「この選挙に大義はあるんでしょうか。公明党との密約などは市民のあずかり知らぬことです」と明快に質問した通りである。

 あっと驚く奇策を考えたのは、政界から「身を引いた」ことになっている前大阪市長の橋下徹氏だろう。タレント弁護士だった橋下氏は2008年、大阪府知事に当選したが、実は政令指定都市の大阪市のほうが港湾など市内の重要箇所についての権限が強いことを知り、2011年に市長に鞍替えした。その際、知事選に引き込んだのが府議だった松井氏だ。

 元大阪府議のジャーナリスト山本健治氏(75)は「多くの場合、県庁所在地の首長と県知事とかは仲が悪いので、こういうことはなかったが、これは凄いやり方。こんなのは初めてではないか」と話す。さらに都構想について「大阪市民が違和感を持たない一つの原因は、市も府も名前が“大阪”で同じだからです。大阪市民は『大阪都でもええやんか』と。しかし、これが横浜と神奈川、仙台市と宮城とかなら絶対に反対するでしょう。いろいろな意味で、市民はごまかされているのです」と指摘する。

 関西の報道は維新と公明党の喧嘩を追うことばかりだが、問題の本質は公選法の抜け穴を狙った恐るべき挑戦であることだ。ようやく朝日新聞の3月10日の天声人語が「こんな抜け穴があったとは」として、戦後、自治体の首長は任期満了直前に故意に辞職して相手陣営の体制が整わないうちに選挙を仕掛けて当選するケースが多発し、「辞任選挙の場合は当選しても任期は残りの期間だけ」と公選法が改正された歴史を紹介、これが反故にされる危険を憂えた。

 奇策の出直し選挙で当選すれば、任期4年の間に衆院選がある。そこで、公明党の現職がいる選挙区に「候補を立てるぞ」と脅して、大阪都構想推進へ巻き込む思惑もある。公明党の衆議院議員は、小選挙区で当選した全国8人の現職中、なんと4人が大阪の選挙区のため、大阪は最重点地域なのだ。前回2017年の衆院選では、橋下市長が公明幹部の現職がいる選挙区での出馬を匂わせ、公明党がいっぺんにビビってしまった経緯もある。今の騒動は、「橋下人気」にすり寄った公明党と、都構想実現のために市議会と府議会で公明票が欲しかった維新の、「打算の蜜月」の産物でもあった。一方、安倍晋三首相(64)が改憲を目指していることもあり、中央政界では自民党と日本維新の会は「蜜月」の関係だが、橋下維新に次々と落選させられ「破壊」された大阪の自民党にとって維新は「恨み骨髄」と複雑だ。

 とはいえ、「勝つまでじゃんけん」で長期政権を狙う松井氏と吉村氏を見れば、都構想や「公明党の裏切り」など方便に過ぎないのでは、と疑念が沸く。

 今回の入れ替わり出馬。そもそも、市長職と知事職は入れ替わってもすぐにやれる「容易い仕事」だったのか、でもある。2人はそれを問われると「松井さんがやってきた府のことも理解している」(吉村氏)、「吉村市長がやってきた市の仕事も理解している」(松井氏)と、維新として一体となって進め来たことを挙げて巧みに「府市統合」「都構想」の大義へ持っていった。

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