明石市長“火を付けてこい”発言で議論百出 朝のワイドショーは公平に報道したか

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残りの音声データを報じた「とくダネ!」

 開口一番、ユルい感じで語り出したのが「とくダネ!」のMCを務める小倉智昭である。

「この市長が、録音されていた音声が標準語だったら、もうちょっとニュアンスが違うものかもしれないよねえ」

 そしてこちらも市長の経歴に始まり、暴言音声を流した上で、男性リポーターがこう伝える。

「実は、この続きがありまして。昨日の神戸新聞が細かく伝えているんですけれども……」

 地元紙が報じた記事ではあるが、それを抜粋すると、

《市長:ずっと座り込んで頭下げて1週間以内に取ってこい。おまえら全員で通って取ってこい、判子。おまえら自腹切って判子押してもらえ。とにかく判子ついてもらってこい。とにかく今月中に頭下げて説得して判付いてもうてください。あと1軒だけです。ここは人が死にました。角で女性が死んで、それがきっかけでこの事業は進んでいます。そんな中でぜひご協力いただきたい、と。ほんまに何のためにやっとる工事や、安全対策でしょ。あっこの角で人が巻き込まれて死んだわけでしょ。だから拡幅するんでしょ。(担当者)2人が行って難しければ、私が行きますけど。私が行って土下座でもしますわ。市民の安全のためやろ、腹立ってんのわ。何を仕事してんねん。しんどい仕事やから尊い、相手がややこしいから美しいんですよ。後回しにしてどないすんねん、一番しんどい仕事からせえよ。市民の安全のためやないか。言いたいのはそれや。そのためにしんどい仕事するんや、役所は。》

 いいセリフなのである。これにコメンテーターのデーブ・スペクターが反応する。

デーブ:今の発言、後半部分を見ると立派なんですね、熱意というか。(選挙で)地元のみなさんがどういう判断を下すのか、興味深いですよね。いろいろやってくれる人か、モラル的にこういうことを平気で言う人がいていいのか、難しい選択と思いますけど。

羽鳥が浮く「モーニングショー」

 テレ朝の「モーニングショー」では、一連の暴言音声や謝罪会見のVTRの中で、いきなり明石市労組の委員長がコメントを挿入される。

「一旦、怒りの感情に火がついてしまうと、なかなかそれを収めるのに苦労する、時間がかかる、とお聞きしたことがありますね」――。ということは、労組の委員長は、市長の性格を知らないのか……。

 そして暴言と会見を放送し、「ビビット」も取材した環境保護活動家のコメントが入る。さらに、市長の経歴、業績が紹介され、羽鳥が受ける。

羽鳥:政策に向けての思いと、その言葉の内容は別なので、立場上、この発言は許されるものではないと思います。

 あくまで市長からのパワハラ発言は許せないようである。宇賀なつみアナが音声データの続きを読み上げるのだが、

羽鳥:工事への市民の思いも伝わってきますし、市の職員も積極的に仕事していたのかなあというのはどうなんだろうと、感じるところは感じますが、ただこの口調と発言の表現の方法ですね。「火つけてこいや」、これはダメですね。

 市長をどうしても許せない羽鳥は、コメンテーターを務める元朝日新聞記者で「AERA」前編集長、朝日を退社した現在は「ビジネスインサイダージャパン」統括編集長を務める浜田敬子に話題を振る。

浜田:どんなに目的がね、死亡事故を解決するための拡幅工事だとしても、この言い方とか、この手法は、絶対に許されない。

 我が意を得たり、という表情の羽鳥。だが、ここから状況は変わってくる。

浜田:今回、感じたのは、昨日のニュースではここまでのこと(音声データの続き)は出ていなかったんですね。一部の音声だけが一人歩きしてしまっていて、なんて酷い市長だと。報道にいる身としては、報道の仕方というのは凄く難しいと感じた。(音声データを)セットで報じるべきだと思います。第一報は朝日新聞と聞いていますが、背景として、この職員が仕事をしていたのかどうか、市長の発言も問題だけれども、職員の仕事の仕方にも問題があったのか、なかったのか。両方きちんと取材をして出すというのが、必要なんだろうと思います。

 ひょっとして朝日の批判なのだろうか? 興味深い発言なのだが、羽鳥は聞く耳を持たない。

羽鳥:今回、録音が出たというのは、普段からこういう口調があったから、録音をしようという気になったんだろうと思います。事実と発言の内容は分けたほうがいいと思います。

 あくまでもパワハラ発言に固執する羽鳥。古巣の日テレで何かあったのか? そこにレギュラーコメンテーターの玉川徹が登場する。

玉川:大前提として、暴言がダメなのは議論の余地がないと思います。ただ、どう考えるべきなのかというと、(市長は)市民目線で仕事をやろうとしていた人で、どうもちゃんと仕事してなかったところもあるみたいですね、市の職員が。それを叱責するっていうのは、市民からすれば、やって欲しいことではあるでしょう。それで感情が激高した。仮に職員がサボタージュしたとしても、激高するような市長は嫌だと拒否するか。それとも工事は今、行われているそうですから、市民からしたらどっちを選ぶのか。有権者が選んだ市長が正しい市長です。それを考えると、2カ月後に選挙って言っていたでしょ。この時期に2年前の話が出ているっていうことも、なぜ今これが出てきたかも考えなきゃいけない。あらゆるデータをテーブルの上に乗せてもらって、これで市民は判断すべきなんです。我々が考えなきゃいけないのは、一部の切り取られた部分だけ報道することによって、市民がテーブルの上に全てがある中での判断をさせないことになってはダメだと思います。

 明石市長の暴言から、マスコミ報道のあり方に広がる大きなテーマとなったのである。だが、それでも羽鳥は諦めないのだ。

羽鳥:でも、やっぱり大事なのは、職員に「火つけてこいや」は、これはナシですよね。ハイ、4月に地方統一選です。ご本人は昨日の会見だと出馬するんだろうなという雰囲気でした。どうなるでしょう――。

 市長と職員、両者の言葉を一番公平に報じたのは日テレ「スッキリ」。一方、両者に取材しながら、上澄みだけの情報で報じたのはTBS「ビビット」。この差は大きいと言わざるを得ない。センセーショナルな音声に飛びつき、公平とは言えない報道をしたことは問題なんじゃないの?

週刊新潮WEB取材班

2019年2月2日掲載

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