多死社会で通夜ナシ、葬儀ナシの“直葬ビジネス”が急増 新規参入に必要な資金は?

ビジネス 企業・業界 2019年1月17日掲載

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 高齢化に伴う「多死社会」を迎え、国内の年間死亡者数は年々増加の一途をたどり、火葬場不足が深刻化している。場所や時期、時間帯によっては、火葬申込みから1週間から10日程度も待たされることも珍しくないという。また火葬場の建設計画が持ち上がると地域住民から必ず「地域のイメージが悪くなる」という反対意見が上がり、なかなか新設も行政の思うようにいかない。そんな中、死亡者の増加で恩恵を受ける業界といえば、葬儀屋だろう。さぞかし葬儀が増えてウハウハなのかと思いきや、関係者によれば、増加が目立つのは単価の安い「直葬」ばかりだという。葬儀業界の最新トレンドをお伝えする。

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 厚生労働省の統計によれば、年間死亡者数は、1990年=82万305人、2000年=96万1653人、2010年=119万7012人、2016年=130万7748人と推移しており、年々増加の一途をたどっている。今後もこの傾向は変わらず、国立社会保障・人口問題研究所の推計では2040年には167万人を超えると見られている。

 当然、葬儀の数も増えているはずだが、業界にあたってみると、聞こえてくるのは「直葬」の話ばかり。直葬とは、通夜や告別式をしない火葬のみの葬儀である。業者が行うのは、主に遺体の引き取りと安置、火葬場への搬送である。果たして葬儀と呼べるかどうかはともかく、通常の葬儀よりも安価なことから直葬を選ぶ人が増えているという。

 福岡市博多区にある「福岡直葬センター」は、冠婚葬祭業者の株式会社ラックが運営する直葬専用施設だ。担当者は次のように話す。

「当センターが施行しております直葬というのは、お通夜、ご葬儀などはありませんが、ご遺体を専用の個室にご安置して、ご家族と人生最後の時間を一緒に過ごして火葬場に向かっていただき、荼毘に付すというものです。最大の特徴は値段の安さです。通常の葬儀ですと、九州の場合、130~140万円ほどになりますが、当センターの直葬プランは18万円(税、火葬代別)となっています」

「子供に負担をかけたくない」と直葬を希望

 たしかに価格だけ見ると、直葬は圧倒的に安いが、葬儀を行わないというのは味気ない気もする。一体、どんな人が直葬を選ぶのだろうか。

「事前相談も受けていますが、残された家族の負担を考えてという方が8割です。お子さまがいないという方も多く、そうなると兄弟や甥っ子、姪っ子に葬儀で面倒をかけてしまう。そこで負担の少ない直葬を、という考えです。特に都市部にお住まいの方で直葬を選ぶ方が多いのも、離婚されているとか、単身世帯であるといった、社会的要因によるものだと思います。ひと昔前の家族であれば、3人兄弟、4人兄弟というケースが多かったと思いますが、今は一人っ子か、2人兄弟が普通です。例えば、一人っ子でご結婚されている場合、最悪、配偶者の親を含めて4人の面倒を見ることもありえますので、そうすると、かなりの負担がかかっています。そうした中で高額のお布施を払えないということで、寺離れも進んでいます」

 同センターは、棺を収納する冷蔵設備を12体分そろえ、昨年度は直葬を含む依頼を450件受けたという。これは九州でも最大規模だ。2011年に営業を開始してから施行件数は右肩上がりで、担当者は「今から団塊の世代が引退し、本当の多死社会が見えてくるので、もっと需要が伸びてくる」と言う。実際、葬儀業界への参入を希望している事業者も多く、全国から「視察したい」という申し出が多数寄せられているという。

 実は、直葬ビジネスは資格が必要なく、新規参入業者にとってはハードルが低い。埼玉県所沢市で直葬を多く扱っている「葬儀のさくら屋」の担当者に解説してもらった。

「私は小さな葬儀会社で勤務してから独立しましたが、開業資金は200~300万円程度だったと思います。集客のために広告を出すなどのノウハウがありますので、未経験者がいきなり始めてうまくいくものだとは思いませんが、葬儀屋を始めるのに必要なものはさほど多くありません。まず棺の出入りができる事務所が必要です。うちは30畳ぐらいの部屋で、事務スペースと家族葬ができるスペースと遺体を3体安置できる霊安室をパーティションで分けています。遺体を冷蔵する保冷庫は2台あります。保冷庫は1台100万円ぐらいから販売されていますが、棺の中に直接ドライアイスを入れれば遺体を冷やせるので、保冷庫はなくても構いません。それと外注すると高いので、霊柩車は必須です。うちはエスティマを2台使っていますが、棺が入れば問題ありません」

 霊柩車と言えば、神道や仏教の建物様式を模した宮型霊柩車を思い浮かべる人も多いはず。ところが最近は、“縁起が悪い”と近隣から苦情が来ることから、火葬場のほうで禁止され、セダンをベースにした高級感漂う洋式霊柩車や通常のワンボックスカーが使われることが多いそうだ。

「迷い」があれば直葬はおすすめしない

 さくら屋では、直葬を事前相談があれば6万円(税、火葬代別)という驚きの価格で請け負っているが、これで果たして利益は出るのだろうか。

「金額は開業した時にできるだけ安くしたいと思って決めたもので、正直、利益はほとんど出ません。うちは普通の葬儀も行っていますが、直葬の割合が多いですね。昔は直葬が1~2割でしたが、今は半分ぐらいです。直葬を選ぶ方の理由は、単純に安いことと、人が集まらないから普通の葬式を挙げてもしょうがない、という意見が多いです。『葬式は出さなくていいから』と生前に故人に言われたという喪主も多いです。お金がないわけではないものの、儀式に重きを感じないという人も増えています。ただ、『葬式も挙げられなくてごめんね』とご遺体に話しかける方もいますので、迷いがあればお坊さんを呼んでの通常の葬儀をおすすめします」

 なお、自治体から葬祭費が出る制度があり、死亡者が加入している保険や自治体によっても異なるが、例えば所沢市では国民健康保険に加入していれば、5万円が支給される。また火葬代は火葬場によっても異なるが、所沢市の場合、火葬代のみであれば12歳以上の市内居住者で5000円。無料の自治体も多い。

 さくら屋の担当者は、「直葬だと、火葬場でのご遺体との対面がわずかしかないので、どうしても寂しいものです。そのためでこれからは、もう少しワンクッションを置くお別れ会のような葬儀がもっと増えてくるのではないか」と言う。お別れ会とは、「直葬プラスアルファ」のようなもので、お坊さんは呼ばないものの、どこかで部屋を借りて、遺族などが集まり、棺に花を飾って1~2時間ほど故人の名残を惜しんでから火葬場に向かう。このプランだと通常の葬儀の半分ぐらいの費用で済む。

遺体をドライアイスで冷凍しない画期的技術

 簡素化が進む葬儀だが、一方で遺体の状態に対する意識はむしろ高まっているようだ。2008年公開の映画『おくりびと』で遺体の状態を管理し、見栄えを整える納棺師の仕事が注目されたが、遺体の保存装置も向上している。株式会社クーロン(東京都日野市)では従来の遺体保存で一般的だったドライアイスを使わず、パーシャル方式で遺体を冷蔵する遺体保存装置「ペルソナ」を開発・販売している。代表取締役の阪口茂氏が解説する。

「パーシャルというのは、食品の冷蔵庫で使われてきた技術で、マイナス3~4度で保冷します。ペルソナでは、水の分子と同じレベルで波長の振動を与えることで水の分子を共振させ、氷点下でも凍結せず、細胞を破壊せず、ご遺体を良好な状態で保存できます。遺体撮影専門のカメラマンさんからも『ペルソナで保管した遺体はきれいですね』と言ってもらえるほどで、ドライアイスとの違いは一目瞭然です」

 1台あたりの価格は280万円と、初期費用は従来型の装置よりも高価だが、ドライアイスを使って遺体を保冷すると1日あたり4000円程度かかるのに対し、ペルソナは1カ月稼働させても電気代が6000円程度とランニングコストの面で優れている。また、二酸化炭素を排出するドライアイスよりも環境負荷をかけないというメリットもあるという。

 少子高齢化がますます進み、規模の縮小が避けられない日本経済の中で葬儀業界は数少ない成長産業である。今後さらに革新的な技術やサービスが現れることに違いない。

取材・文/星野陽平(清談社)

週刊新潮WEB取材班