「吉野家」15億円の赤字は“牛丼並盛360円”ビジネスの限界「すき家」も「松屋」も逆風

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同じ問題を抱える松屋とすき家

 吉野家だけが抱える問題ではなく、“牛丼業界”全体の話だ。そのため、松屋を運営する松屋フーズと、すき家を抱えるゼンショーホールディングスも、同じ苦境に直面していると考えられている。経済担当記者が言う。

「実は牛丼業界は、めまぐるしく“勝ち組”と“負け組”が入れ替わっています。例えば、すき家は17年に、牛丼の並盛は価格を据え置きした上で、大盛や特盛などを値上げし、松屋は並盛も含めて牛丼を値上げしました。現在、牛丼の並盛は、松屋が320円、すき家が350円、吉野家が360円という価格設定になっています。そして昨年の夏までは、松屋とすき家の値上げを嫌った客が吉野家に流入し、売上高は好調に推移していたんです」

 それが一転、最新の数字を見ると、吉野家は既存店の売上が減少傾向を示している。逆に松屋やすき家は、値上げのイメージを払拭し、回復基調にあるようだ。流通ニュースは昨年12月4日(電子版)「牛丼3社/11月既存店売上すき家、松屋増、吉野家は減」と報じた。

 この記事によれば、

【すき家】「既存店売上高5.0%増、客数3.0%増、客単価2.0%増」
【松 屋】「既存店売上高2.9%増、客数0.4%増、客単価2.5%増」
【吉野家】「既存店売上高3.0%減、客数5.4%減、客単価2.5%増」、

となっており、すき家と松屋は「増」が並ぶのに対し、吉野家では客が逃げているのが分かる。

「とはいえ、3社は等しく将来性が疑問視されています。吉野家が赤字だと報じられてから、松屋ホールディングスもゼンショーホールディングスも株価が下落しました。特にゼンショーに関しては、日経が1月11日に電子版で『<東証>ゼンショHDが大幅安 吉野家HDの赤字決算の連想』の記事を配信しました」(同・経済担当記者)

 人件費の圧迫も、なかなか解決は難しいようだ。3社の店舗を比較して、「吉野家は外国人アルバイトが少ない」と感じている方はおられないだろうか。経済担当記者によると「その直観は正解です」とのことだ。

「実は吉野家は、非常にコンプライアンスを重視する企業です。ご存知の通り、外国人アルバイトは留学生だけに認められていますが、バイト目的の留学生が存在するなど様々な問題も報じられています。吉野家は、外国人アルバイトの雇用に厳格な姿勢を見せていることも、同社の人件費上昇の一因になっていると思います」

 企業の社会的責務としては正しい判断であることは言うまでもない。だが、顧客の希望と相反する現実も存在する。

「今でも吉野家を利用しますが、私が行く店舗では50代の日本人女性が2人ほど働いています。そして彼女たちは、『申しわけありません』が口癖になっているんですね。客の注文が立て込むと、2人ではこなしきれない」(前出の千葉氏)

 千葉氏は牛丼業界が存続するためには、価格の見直しをするべきだと提言する。単なる値上げではなく、高級化を目指すのだ。

「“薄利多売”が駄目なら、高品質で、きちんと利益をいただく路線です。1000円や1500円の牛丼を開発し、商品化するわけです。実は90年代、吉野家は高級牛丼に挑戦したことがありますし、国会の中にある永田町一丁目店と羽田空港の国際線旅客ターミナル店は1240円の『牛重』を販売しています。この路線を充実させていくという発想が必要ではないかと思います」

 吉野家のキャッチフレーズは有名な「うまい、やすい、はやい」だ。看板の「やすい」を捨てる勇気が、吉野家に問われているのだろう。

週刊新潮WEB取材班

2019年1月16日掲載

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