憧れの「田舎暮らし」なんて真っ赤な嘘 女性が直面する“移住地獄”とは

社会2019年1月4日掲載

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移住女性に浴びせられる“罵詈雑言”

 小さくてもいい。田畑で家庭菜園をしながら、慎ましく暮していければ――。そんな思いが募り、ついに始めた夢の田舎暮らし。しかし、現実は甘くない。とりわけ女性にとっては堪え難い話も多い。

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 地方は現在でも“男社会”が圧倒的。“男衆”の価値観が支配する集落に飛び込んだ、ある妻の苦悩とは……。

「集落では一人が言い出すと、全員が自分の意思に関係なくそっちに流されますから、昨日までの友も今日の敵で、もうダメなんですね。理屈じゃないんです。たとえ理不尽な言いがかりであっても、言われたら最後、噂を立てられたら最後なんです」

 五町田貞子(42歳・仮名)さんは、こう言う。そばに寄り添う夫の弘信さん(48・仮名)が黙ってうなずく。

 現在は長野県松本市に住む五町田さん夫妻が先頃まで住んでいたのは、やはり長野県内の小さな集落だった。そこは冬場になれば、あたりの林道はこぞって通行止めとなり、ほとんど陸の孤島に近い地形にあった。

 東京生まれ東京育ちで、大学では建築を専攻した夫の弘信さんは、建築会社で設計士としてキャリアを積み、40歳になるときに独立して設計事務所を立ち上げた。

 それまで築いた建築関係の人脈で設計請負の仕事は順調だったが、以前から夢だった山村での自然環境を生かした設計を手がけたいと、田舎暮らしに踏み切った。事務所を手伝っていた妻の貞子さんも、やはり東京育ち。「高層ビルの森はもう見飽きて」と、まさに夫唱婦随での田舎暮らしとなった。

 幾度も地域を訪れ、役所を通じて地域の有力者らへの挨拶も丁重に繰り返したうえで、人間関係に軋轢が生じないようにと十二分にケアをしてからの移住実行となった。

 だが、現実は想像以上のものだった。集落の公民館で移住者に向けられる言葉からして、苛烈なものばかりだった。

「東京の江東区から移住してきた70代の女性に対して、『あのババアは区費の払いが悪いくせに最新の石油ヒーターを使いやがって』とか、『東京から来たあっちの嫁は真っ昼間だってのにカーテンを閉めっぱなしにしやがって』とか、まあ、言葉がキタナイのなんのって。都会から来た私たちでさえ驚くほどの口の悪さでした。まるで素行不良の中学生みたいな……」

 この集落では毎年、住民が金を出し合って、代表者が新幹線で年末ジャンボ宝くじを東京・有楽町のチャンスセンターまで購入しに行くという“年中行事”がある。

「不参加を伝えると、『都会から来てカネを出さねえなんてふざけやがって。誰のカネで生活できてると思ってやがるんだ』ですからね。とにかく『移住者はカネを落とせ』、『カネを拠出しろ』と、まあカネ、カネ、カネ。もしくは、露骨に浴びせられる罵詈雑言ばかりでした」

 そんな地にも、まれに妙齢の“お一人様”の女性移住者が流れ着くことがある。

「畜産の地なので、あるとき女性の獣医さんが越してきたんです。そして、公民館で挨拶に立った女性の獣医さんに、男連中からこんな言葉が飛び交うんです。『おーいっ、彼氏はいるのかー、彼氏はーっ』。それを合図に、合いの手を入れるかのように、あっちからもこっちからもで、その下品なことといったら……。若い獣医さんは可哀想に、赤面したまま言葉なく立ち尽くしていましたよ。しかも、それの何がおかしいのか、男たちはドッと大笑いなんです。都会や会社の歓送迎会でそんなことをやったら、今時は『セクハラだ』、『モラハラだ』と言われかねませんが、いかにも男社会いまだ健在といった感じですね」

 そして、女性への配慮が、いまだに乏しいのだという。

「年に1度の集団検診では、体育館に男女問わず、1列に並んで検尿、検便を提出させるんですが、検診はおおむね集落を区切って検診日を決めているんで、指定された日に行くと、当然、前後左右みんな隣近所の見知った顔ばかりです。その検尿、検便を提出する机には、毎年こうプラスチックに印字された大きなプレートが出ているんです。『生理の方は申し出てください』って。前後左右は隣近所のオッサン、オバサンばかりですよ。そこで若い女性が、『今日生理です』なんて申告したらまる聞こえじゃないですか」

 さすがに見かねた五町田貞子さんが、役所の女性担当者に改善を要望したという。

「『隣人のおじさんがいる前で、今日生理ですって、あなたなら言えるんですか』って。『都会だったら、今時こんなことをしたら役所が突き上げられますよ』って。でも変わりませんでした。理由はこうでした。『毎年そうやってますから』って……」

 ゴミの収集では、完全に無色透明なビニール袋が指定されている。中身は当然、丸見えだ。

「そんなゴミ袋に、名前を書かなければなりません。女性なんかは恥ずかしくて、生理用品の袋ひとつ入れられないわけですよ。トイレは汲み取り式だし、浄化槽に流すわけにもいきませんから。結局、そうした恥ずかしいものは、夜のうちに車に積んでおいて、たまに遠くのコンビニに行った折に、そこのゴミ箱に捨てることになります。このように、田舎の集落へ移住した女性は比較的歓迎される一方、女性に対する配慮は公私ともにありませんね」

 過疎の地ほど、嫁の来手や後継者不足が、今もなお現実の課題である。そうした集落では、女性は大切に扱われる傾向が強い。ここで紹介した女性の苦労話は、移住体験談として、むしろ例外の部類に入るのは事実だ。

「実際、小学校や分校に独身の女性教師が派遣されてくると、そうした女性教師に男衆がアプローチして結婚した例は数多くあります。集落の若い男性は、そういうことでしか女性との出会いがないので」(同・五町田貞子さん)

 しかしながら、女性と男性の違いは当然として、既婚女性と独身女性の間でも、集落での扱われ方は決定的に異なる。移住の体験談も、その辺りを斟酌したうえで耳を傾けるべきだろう。

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