憧れの「田舎暮らし」なんて真っ赤な嘘 女性が直面する“移住地獄”とは

国内 社会 2019年01月04日

  • ブックマーク

女性がタバコを吸えば“犯罪者”

 五町田貞子さんは、女性の喫煙も要注意だと明かす。

「最近は集落の奥さんたちも、みんなタバコを吸いますよ。でも、集落で女性がタバコを吸っているところなんか見られたら、もう、それこそ犯罪者扱いですよ。『女のくせにタバコなんか吸いやがって』って。周囲からそう罵声を浴びせられるだけでなく、その奥さんの嫁ぎ先の家の名誉にまでかかわってきますから、隠れて吸うのに必死です」

 見つかったら大変だ。「あそこの嫁は、あの女は、タバコなんか吸ってやがるぞ」と、まるで犯罪者扱いだ。

「だから、タバコを吸うときだけは、誰もいない山のなかの奥の奥のまで車を走らせたり、あるいは、集落の者はあまり立ち寄らないような生活圏から離れたコンビニまで行って……。一服するのに、1本吸うのに、もう大変です。ガソリン代のほうが高くつきます(笑)。女のくせにタバコなんかって。それでいて男たちは、役所の前だろうが、畑だろうが、プカプカやってますからね。女のくせにって……時代錯誤も甚だしい。でも、それが常識なのが地方の集落ですから。でも、それでも出て行かないんですよ、地元出身者やその奥さんは」

 高断熱高気密の自宅を建ててもらい、車も買ってもらい、子供の経費の面倒もみてくれる――。それはやはり、実家に“寄生”していなければ成り立たない、田舎暮らしの良さなのだろう。

 そんな地元出身者、Uターン夫婦の生活ぶりを見て、移住者が自分の生活像を重ねてはいけないのだ。「しかも……」と貞子さんは明かす。嫁はときに、家族として数のうちに入らない扱いなのだとか。

「これは長野のその集落だけじゃなくて、山梨県北杜市とか移住人気地でも共通ですよ。あのあたりじゃ、実家の姑は息子夫婦のところに、おやつだ、おすそ分けだといって、お菓子やお土産を持ってきても、例えば4人家族でも必ず3つしか持ってこないんです。それを奥さんが『夫が帰ってくる前においしくて食べちゃって』と姑に言うと、また姑は持ってくる。しかも、また3つだけ。息子である夫と孫である子供2人の分だけ。これは山梨から長野にかけて、どこでもそういう話を聞きます」

 つまり、嫁の分は勘定に入っていない。決して嫁と姑の関係が悪くなくても、姑はそうするのだという。

「つまり、姑たちが嫁いできた時代から、そうした習慣なんでしょうね、嫁の扱われ方として。都会の女性にはまったく理解できない作法で、彼女たちは陰ではブツブツ言いますが、決して集落から出て行きません。そうした奥さんたちはたいがい、家もクルマも子供の生活費も、そして農家だから食料も、実家から供給されているからなんです。つまり多少嫌なことがあっても、経済的なメリットのほうが勝っているから出て行かないだけのことなんです。それを見て移住者たちが、若い人たちも居着いているから住みやすいんだ、と思うと大間違いです」

 いよいよそんな集落に嫌気がさした貞子さんは、「こんなところに死ぬまで住むのはとても無理」と、ついに新たな移住先へと再び“転住”を決意した。その際、移住以来、なにくれとなく話し相手になってくれていた県警の駐在所に挨拶に行った。

 長野県内の駐在を転々としてきて、まもなく定年を迎えようかという駐在さんは、こう教えるのだった。

「あんたも出て行くか。あんたなんかは長いほうだったよ。もうね、入れ替わり立ち替わりだからね。定住なんかとはほど遠いよ」

 駐在さんは常に、狭い集落の人間の出入りと、転入、転出を目配りしている。移住者が転入してくる場所は限られている。そうした番地の住民の流れを見ていると、早ければ数カ月、長くても1年未満で外に出て行ってしまうという。

「あまりの入れ替わり立ち替わりで、こっちが挨拶に行こうと思ってると、もう出てっちゃってるんだから」と駐在は笑うのだった。

「この辺りは、3代住んでもまだ地元の者としては認められないからね。県をまたいで山梨から嫁いできた85歳のおばあちゃんなんかは、まだヨソ者扱いだから。移住してきた人たちが本心から受入れられるっていうのは、まず考えられないね」

 近くには、移住後10年近く、集落の住人から無視され続けてきたという移住者もいた。だが、都会や会社でのストレスから解放された退職後、そこから「10年もの無視」に耐える“意義”を移住者が見つけられるだろうか……。五町田貞子さんは言う。

「集落に居た頃は、冬場なんて朝は4時、5時から雪かきで、6時に出て行こうものならば、『もう終わったずら』なんて嫌みを言われる毎日でした。今は移住者ばかりが集まっている新興住宅地のような場所なので気が楽です」

 夫の弘信さんも同感だという。

「女房がタバコを吸うときでも、今はもう気兼ねなく堂々とですよ。隣の奥さんと仲良く、縁側でのびのびと世間話しながら、1本頂戴、いいよ、なんてやってますよ。女性がタバコを吸うためだけに車を走らせなきゃいけない田舎暮らしってね、なんだったんでしょうね」

取材・文/清泉亮(せいせん・とおる)
移住アドバイザー。著書に『誰も教えてくれない田舎暮らしの教科書』(東洋経済新報社)

週刊新潮WEB取材班

2019年1月4日掲載

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]