犯罪者の“逃げ得”を許すな 被害者遺族が待ち望む「代執行制度」とは

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今のままでは「殺され損」 被害者遺族が待ち望む「代執行制度」(1/2)

 因果応報。古今東西を問わず、それが人間社会のルールである。しかし、加害者の人権なるものが跋扈(ばっこ)するこの国では被害者や遺族が軽視されがちだ。損害賠償を命じられても、一銭も払わないで済む加害者……。そんな理不尽がまかり通っていいはずはない。

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 平成最後の年末を迎えようとしている。慶事、凶事、惨事。30年間の思いが去来する。全てについて気持ちの整理をし、穏やかな年越しをと誰もが願う。だが、思うようにはいかない。咽喉(のど)に刺さった魚の小骨の如く、心にザラッとしたものが残る。我々の日常に拭い難い脅威をもたらした人間は、まだのうのうとこの世にのさばっている。巷(ちまた)の治安に決定的な打撃を与えた人間が……。

 世田谷一家4人殺害事件。

 2000年の年の瀬に起きた平成最大の未解決事件の犯人は逃亡したまま、つまりその人間がいつ我々の隣に現れるか分からず、「平成の総括」がなされないまま、御代締めくくりの年末が過ぎようとしている――。

 仮想通貨、自動運転車、AI。時代が変わり、技術は進歩しても人の「感情」は変わらない。殺人事件の遺族感情もそうである。だが、彼らに対するケアは、日進月歩の技術革新と裏腹に遅々として進んでいない。

「今年のカレンダーは28年前と同じ日どりのものなのね。宙恵(みちえ)が行方不明になったのがあの年の12月19日で水曜日、遺体が見つかったのが22日の土曜日。そっか、今年はあの年と同じ……」

 こう声を詰まらせるのは、北海道札幌市在住の生井(なまい)澄子さん(82)。1990年、当時24歳だった娘の宙恵さんが刺殺された札幌信金職員殺人事件の遺族だ。現場付近に住んでいた長田(ながた)良二(50)が殺人容疑で指名手配されていたが、長田の行方は今に至るも杳(よう)として知れない。容疑者が特定されていない世田谷一家4人殺害事件とは事情が異なるが、犯人が捕まっていないという点では共通している。

「いつもね、お話をする時は、今度こそは涙を堪(こら)えてと思うんですがダメでね。今日も……。こういう雪の降り始めの季節は特にダメ。事件を思い出して、気持ちが沈んでしまうから」

加害者に損害賠償を請求

 娘さんが亡くなって30年近く経った今も、澄子さんは癒されてはいない。時折、枯れることのない涙を流しつつ、生井さんが札幌市内の自宅で胸中を振り返った。大雪が降り、外は一面真っ白に染まっている。

「自分の命が大切なら、人の命も奪っちゃいけない。殺人を犯しながら何十年も逃げ続けているような男は死刑にしてほしい。被害者遺族はみんな、加害者を死刑にしてほしいと思っています。加害者を許そうなんて思っている遺族はひとりもいないと思いますよ」

 未だ激しい憤怒の念を語る生井さん。

「刑事事件の公訴時効が撤廃される前だったので、宙恵の事件は2005年に時効を迎えました。その時点で事件が警察の手から離れてしまい、私には何もできない。でも、せめて加害者に何らかの罰を与えたい。娘の敵討ちをするためには私が戦うしかないと思い、07年に、逃げている加害者に損害賠償を請求する民事訴訟を起こし、翌年勝訴しました」

 だが、そこにも「壁」が立ちはだかっていた。

「加害者は逃げたままなので賠償金は支払われていない上に、一度判決が下されてもそれから10年経つと損害賠償請求権は消滅してしまうため、新たに訴え直さなければならず、昨年再度提訴しました。当然、印紙代や弁護士費用を含め、バカにならないお金が掛かります。最初の提訴の時はそういうものなのかなと考えていましたが、さすがに再提訴の時は、こんな制度おかしいだろうと思いました。たとえ加害者が逮捕されていたとしても、その人が損害賠償する姿勢を見せなかったら、私たち遺族は賠償金を手にできないばかりか、10年ごとに訴え直さなければならないんです」

 生井さんが、遺族に襲い掛かる理不尽さを続ける。

「民事訴訟で勝訴したところで、加害者が引っ越してしまったらどうやって賠償金を取り立てるのか。犯人らしい男がいるという情報があっても、私たち素人にどうやってその犯人を特定し、損害賠償させろと言うのか。結局、警察に任せない限り、遺族には何もできない。こうした状況のなかで、私は『代執行制度』が必要だと思うんです」

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