イケメン落語家ばかりが登場しボーイズラブ臭を振りまく「昭和元禄落語心中」

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 落語好きの友達の影響で、私も時々寄席に行くようになった。急激にハマッたきっかけは4年前の「噺家が闇夜にコソコソ」というフジテレビの番組だ。話題のネタを落語家が面白おかしくレポート。巧みな話術と顔芸にすっかり魅了された。

 お気に入りの落語家も定まり、それぞれが演じる与太郎や賢(さか)しげな幼児、年増女に心掴まれた。落語家はものすごい役者だと知った。

 しかしだな、寄席でイケメン落語家を観たことがない。というかいない。断言する。見目麗しい落語家が笑いをとれるかっつう話だ。

 この厳しい現実に反して、イケメン落語家ばかりが登場するドラマがある。「昭和元禄落語心中」だ。主演は岡田将生。気絶するほど美しい。「何食ったらそんなに美しくなれるの? 霞? 生き血?」というレベルの美貌である。そして、ミュージカル界のスター・山崎育三郎。小気味よい滑舌に軽妙な身のこなし。男気と野性味を見せたかと思えば、涙を誘う人情味も醸し出す。このふたりが唯一無二の友であり、切磋琢磨する永遠のライバルでもあり、恋敵でもあるという物語だ。

 ふたりの少年期から青年期の青く切ない修業時代と、岡田が年齢を重ね、大御所になってからの時代を描く。

 が、初回は、老けメークを施した岡田が登場。父親代わりとなり育てた娘(成海璃子)との確執には悲しい理由と深い事情が、というスタート。正直キツイと思った。外面は熟年に仕上げても漏れ出る若さ。若手俳優によくある、強制的熟年仕上げに大いなる違和感。

 ところが、だ。青年期に遡ると、途端にしっくりハマッた。根が暗くて真面目で寂しがり屋で被害者意識が強い岡田は、天賦の才と天真爛漫な人懐っこさをもつ山崎に激しく嫉妬する。嫉妬しつつも実力は認める。尊敬もしている。むしろ愛情すら感じている。山崎は自信家で野心家、それが師匠(平田満)の逆鱗に触れて破門となるのだが、このふたりの切磋琢磨には、中年女性の心をザワつかせるボーイズラブ臭がたっぷり。

 岡田の若さ問題に関しては、溜飲が下がる場面があった。酒を飲んで高座に上がり、客と喧嘩、協会から除名になった落語家役を柳家喬太郎が演じていた。自分の落語に迷いが生じていた岡田は、落魄(おちぶ)れて居酒屋で「死神」を演じる喬太郎に遭遇し、頼み込んで教えてもらうことに。岡田の落語に、喬太郎が「死神がわけぇ、ま、おめえがわけぇからしょうがねぇんだけど」とダメ出ししたときの私のカタルシスったら!

 で、後半は元極道の竜星涼が岡田に弟子入りし、ひと波乱という展開。名作「タイガー&ドラゴン」を想起させるが、これはこれでひと味違うはず。全編通して登場するのは運転手役の篠井英介。血気盛んな若人を優しく包む理解者で、落語の大名跡「八雲」の伝統を伝える生き証人でもある。

 やっぱりドラマは、初回だけで視聴を断念してはいけないのだ。後半で濃く深く層を重ねてくる作品もあれば、「大恋愛」(TBS)のように、突如サイコホラー展開ってのもあるからなぁ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年12月13日号掲載

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