「女子マラソン元日本代表」を苦しめる“窃盗症(クレプトマニア)”という病 専門家が解説

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実は行動メカニズムが似ている万引きと盗撮

 斉藤氏が勤務する大森榎本クリニックでは、過去2年間、200人以上の万引き依存症患者を受け入れたところ、結果的に7割以上が女性だった。

 これまで数多くの患者の治療に関わった結果、男女関係なく真面目で責任感が強く、意志が強い人が多く過剰に他者の評価を気にするタイプが多いという。また、女性で特に主婦の場合、「節約」の一環として万引きを始めるケースが目立つと斉藤氏は語る。

「主婦だと、基本的に家計は夫の給料から決められたお金でやりくりします。それでたとえば夫から毎日のようにしつこく『節約してほしい』などと言われ続けますが、誰からも評価されません。その不全感やストレスから、ふとしたことがきっかけで万引きをしてしまいます。実は、初回は案外発覚しないケースが多いのでそれを繰り返している間に常習化してしまうのです」

 平成26年版の犯罪白書でも、前科のない女性万引き事犯者(219人)の動機として、20代のみ「自己使用・費消目的」が1位だったが、30~60代では「節約」が1位だった。

 斉藤氏によれば、女性が万引きする物は圧倒的に食料品が多く、男性の場合、書籍や工具や文房具、歯ブラシ、ひげ剃りなどが多いという。

「そもそも依存症は環境への適応行動という側面があるので、日常的にどのコーナーを多く利用しているかによって盗るものが決まってきます。なので、万引きする物の傾向も男女差が出てくるのです。依存症とは、日常の中だからこそ耽溺していきます」

 また、万引きと盗撮常習者の行動メカニズムはよく似ていると、斉藤氏は説明する。

「盗撮犯の場合、女性のスカート内を盗撮して、後でそれを見てマスターベーションするのが目的。しかし、常習化するにつれて、撮ったものをまったくみずに盗撮する行為自体で得るスリルや快楽のためにハマっていくのです。これは盗撮のための盗撮といえます。万引きも同様で、当初の動機は節約目的だったはずなのにとにかく物を盗むこと、つまり窃盗のための窃盗になっていくのです」

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