ひょっこりはん、アンゴラ村長を生んだ「早稲田大学お笑い工房LUDO」って何?

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変人になれない悩み

 こうして演者は、ライブだ、大会だと、お笑いに明け暮れる。そして、ストイックに芸を追求する先輩、同級生、後輩をサポートするのがスタッフの役目だ。

 スタッフのトップに就いた眞鍋さんは、小中高とバレーボールに熱中した。特にお笑いに関心を持ったことはなかった。「たまたまテレビにお笑いが映っていたら、それを見て普通に笑っていましたね」と振り返る。

「なのにLUDOへ入部したのは、新歓で先輩に話しかけられて、それがとにかく面白かったからなんです。興味を持って新勧ライブに顔を出すと、4年生や3年生の先輩たちが本当に面白くて、笑い転げてしまいました。自分ではお笑いをやりたいとは思わないけど、こんなに面白い人たちがいるなら傍にいたい。そして芸を間近で見てみたい。スタッフという立場があるなら、それで頑張ってみようと決めたんです」

 だが眞鍋さんは、バレーボールのサークルにも入っていた。1年生の時は熱心に活動していたわけではなかったのだが、2年生になって転機が訪れる。

「これまでは先輩ばかりに注目していたんです。ところが同級生も凄く面白くなっていて驚きました。彼らは姿勢も真剣で、それに共感を覚えて、本格的に手伝うことにしました。演者に比べると全く楽ですけれど、それでも大変な日々です。特にライブは、事前の設営から始まって、お客さまの誘導、幕が開いてからの進行と、大忙しです。でも、観客席ではなく舞台の袖から仲間の姿を見られるのは、凄くやり甲斐を感じました」(同・眞鍋さん)

 演者のほうは技術が上達していくと、それに比例して“壁”が出現する。他人を笑わせるためには、自分を客観視することが必須だ。観客の反応を見定め、自分を冷静に観察しながら、漫才やコントを進める。そんな日々を積み重ねると、自分の得手だけでなく、不得手な部分も直面させられる。悩みは尽きない。精神的に追い込まれていく。

「お笑いサークルにはいろいろな人がいます。いわゆる変人、変わった人もたくさんいます。いつでもお笑いのことを考えているというか、急に頭を丸刈りにしたり、何の躊躇もなくチョークを食ったり、みんな面白いんです。そしてやっぱり、変人のネタって、凄く笑えるんです」(同・赤堀さん)

 ところが赤堀さんは、変人にはなれない。逆に自分の真面目さを痛感することが増える。それと同時に、自分の芸に行き詰まりを感じていく。

「プロの方々の笑いは、誰にでも笑える、分かりやすいものが多いと思うんです。ところが大学のお笑い、特に大会では、観客のほとんどが大学お笑いの演者なんです。そのため、正当より異端、慣れ親しんだものより見たことがないものを好みます」(同・赤堀さん)

 赤堀さんはオーソドックスな漫才を指向していた。しかし、それではウケない。そこで少し変化球を投げることにした。例えば「修学旅行」でネタを作るとする。普通の観客が相手なら格好の題材だ。多くの人が修学旅行を体験している。間口の広い漫才になる。

 だが、大学お笑いの場合は「修学旅行の漫才なんて普通だ」と題材レベルで不評を買う危険性がある。そこで赤堀さんたちは「修学旅行中でタイムスリップをする」という設定を付け加え、独自性を出していく。

 こうしたアプローチの甲斐もあって、だんだんと周りからの評価も上がってきた。だが、プロとの距離も痛感するようになっていく。

「正統派の漫才をやりたいという僕の指向は、プロになった時こそ活かされるんじゃないかという希望もありました。でも、ネタだけじゃなく人として面白い同期がたくさんいて、劣等感を感じることも多くなりました」(同・赤堀さん)

 それに周囲をよく見てみれば、プロになった先輩たちも、学生時代のお笑いのスタイルを貫いている人も多いように思えた。

「にもかかわらず、テレビで広範な人気を獲得していらっしゃいます。自分のように本質的に面白くない男が、オーソドックスな漫才をやっても、プロとしての未来は存在しない。そう思うようになり、プロを目指すのは断念しました」(同・赤堀さん)

「チョークを食う部員は面白い。そんな破天荒な人間に幹事長は無理。自分はつまらないからこそ、まとめ役にはむいていた」――そんな風に、赤堀さんは振り返る。

 決して揶揄するのではなく、昔ながらの“青春”を、LUDOの部員は味わい尽くす。ウケる勝ち組。ウケない負け組。喜び、悩み、傷つき、傷つけ、笑いながら嫉妬し、七転八倒しながら成長を重ねる。

 取材の最後に3年間の総括を依頼した。まず前スタッフ長の眞鍋さんは「就活でも『誰かを支える仕事ができないか』と考えるようになりました」と言う。

「頑張ってサポート役を続ければ、とても感謝されるし、それがやり甲斐になることをサークルが教えてくれた気がします。具体的な職種は模索している状態ですが、何かの形で困っている誰かを支えられるような仕事にめぐり合いたいですね」

 一方の赤堀さんは、少し考えると「3年間でプロを諦めることができてよかったです」と苦笑しながら言った。だが、しばらくすると表情を引き締め、全く違う回答を挙げた。

「大会もライブも、全て大学生が運営しているというのは、よく考えると凄いことだと思うんですよ。スポーツなら協会が実施するんでしょうけれど、お笑いは全部、僕ら大学生だけの力でやります。そして入場料を取らないということも大きいでしょう。アマチュアの僕らがプロの方に敵うわけもありませんが、ビジネスではない、タブーも存在しない、純粋なお笑いを4年間、真面目に追求し続けたというのは、少しくらいなら自慢してもいいことじゃないかと思います」

 ブームの弊害もある。LUDOは今、「成長の限界」に直面している。入部者が多いほど、切磋琢磨が増し、演者のレベルは上がる。しかし、あまりに急激な人数増は問題も生む。具体的には、後輩の数が多すぎて先輩のアドバイスが充分に行き届かない。巨大化が笑いのレベルを落とす懸念もあるのだ。

「もっと増えるであろう後輩のために、僕らもさらに頑張らなきゃいけない。そして、“大学お笑い”というものを、もっと多くの人に認知してほしい。『ぜひともライブを見に来てください』と、この記事を通して声を大にしてお願いしたいです」(同・赤堀さん)

 12月のライブは6日(木)、7日(金)、8日(土)の3日間。インタビューの発言ほどはプロを諦めきれていない赤堀前幹事長も出演する予定だ。場所は早稲田小劇場どらま館。詳しくはLUDOのTwitterをご覧いただきたい。

週刊新潮WEB取材班

2018年12月2日掲載

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