「ママ活」のお誘いを受けました(古市憲寿)

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 林真理子さんから「古市くん、ママ活しますか」というLINEが来た。フグの名店、味満んに連れて行ってくれるという。グループLINEでの会話で、もちろん冗談なのだが、ふと思い出したことがある。

 僕はMoneyForwardという家計簿アプリを使っている。クレジットカードと連携して、明細を自動的に「交通費」「書籍費」などと分類してくれるのだ。そのアプリを見返していたのだが、ある月の食費がたったの5千円だったのである。

 自分でもびっくりした。ベテラン主婦のように、スーパー巡りをして節約に励んだわけではない。一体何があったのか。

 カレンダーを見て答えがわかった。毎晩のように誰かと食事をしていて、一切自分でお金を払っていなかったのである。ある日は出版社に接待され、ある日は友だちにフグをおごられ、ある日はパーティーに参加して、という具合だ。

 昼間はもっぱら備蓄したチョコレートで暮らしているため、食費はほとんどかからない。唯一払った5千円は、スターバックスカードへのチャージ代である。

 自分でもひどい話だと思う。林さんには「あなたは無意識にパパ活ママ活してる」と言われた。確かに、性的サービスこそ提供していないが、本当によく色んな人にご飯をおごってもらう。

 ただ、いつの時代も僕のような人はいたはずだ。「ママ活」「パパ活」という言葉を使わずとも、年長者が若者に何かしたいと思うのは、それほど珍しい話ではない。きっと僕も年を取れば、その時代の若者を味満んに招待しているのだと思う(いや、みんな元気なので、30年経っても林さんにおごられている可能性も高い)。

「ママ活」「パパ活」という新語が流行しているのは、見ず知らずの他人が出会いやすくなったからだろう。古くはダイヤルQ2、インターネットの掲示板を経て、最近はマッチングアプリが大人気だ。あるパパ活アプリは、「自分の夢を応援してくれる、経験豊富で余裕のある男性との交際」なんて、それっぽいことをうたっている。

 マッチングアプリは、キャバクラやガールズバーの牙城も脅かしつつある。「Pato」というエンターテイナー派遣アプリがある。食事やパーティーの席に女の子やマジシャンを、まるでタクシーのように呼ぶことができるのだ。エンタメ版Uberである。

 僕のまわりの起業家にも「Pato」の愛用者は多い。ガールズバーだと店舗まで行く必要があるが、このアプリなら自分の好きなお店に、気軽に女の子を呼ぶことができるのだ。稼げる子になると、時給は2万円以上になるという。最近すっかり見かけない安藤美冬さんもびっくりのノマドワーカーである。

 ただ個人的には、いくらおごりだとしても、つまらない人の誘いには乗りたくない。話も面白くて、おごってもくれる。僕のまわりにはいい人が多いなと思った。と、こんなお世辞も書いてみたのですが、林さん、いつ味満ん行きましょうか。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2018年11月29日号掲載

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