クールジャパンの大穴は…NHKは大河ドラマをもっと海外に売り込むべきだ

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マンガやアニメばかりが目立つ

「クールジャパン」という言葉から連想されるものは、様々だろう。ポケモンや宮崎駿のようなマンガ、アニメ関連の作品を挙げる人もいれば、寺社仏閣、和服など伝統的なものを挙げる人もいる。もしかすると稲田朋美クールジャパン戦略担当大臣の「ゴスロリ姿」を思い出してしまう、という人もいるかもしれない。
 日本文化の良さ、面白さを海外に積極的に発信していこう、ということ自体は歓迎されるべきだが、一方で受け手側とのミスマッチを指摘する声も珍しくない。
 ドイツ在住のライター、雨宮紫苑さんは、著書『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』の中で、こんなふうに書いている。

「わたしはアニメとマンガが大好きだし、『モーニング娘。‘18』などのアイドルが所属している『ハロー!プロジェクト』も好きだ。だから、多くの外国人が日本のポップカルチャーに興味を持ってくれること自体はとてもうれしい。だが誤解しないでほしいのは、『オタクは海外でもあくまでオタクである』ということだ。(略)

 デュッセルドルフで毎年開催される『ジャパン・デー』(Japan Tag)というイベントでは『NARUTO』や『ドラゴンボール』などのコスプレをしている人もいるのだが、正直かなり白い目で見られる。(略)
 それでも日本メディアは『日本のポップカルチャーが世界で人気だ』と言い張るわけだが、日本人全員がオタクではないように、日本のポップカルチャーに興味があるのは限られた外国人にすぎない。MANGAと言っても日本好きでなければ伝わらないし、Idolと言うとまず英単語の方で理解される。日本ポップカルチャーの一般的な浸透度なんて、この程度である。

 皮肉なことに、『アニメやマンガが外国人から人気』というイメージを持った日本人が多いため、日本語を勉強しているドイツ人がいたるところで日本人に『アニメ好きですか?』と聞かれてうんざり……なんて話を聞いたことがある」

大河ドラマはウケる

 冷静に考えてみれば、日本人でも「アニメ、マンガ、アイドルが何より大好き」という大人は別に多数派ではない。ファンといってもそこそこ興味がある、という程度だろう。人によっては「子どもっぽい」と思っているかもしれない。どうでもいい、興味がないという人も珍しくない。
 実はこちらが盛り上がっているほど、若者向けのポップカルチャーは輸出に向いているかは怪しいところがある。
 しかし、ではこれから何を「クール」なものとして売り込めばいいのか。
 雨宮氏は最近、久ぶりにドイツ人のパートナーと共に帰国して、意外なモノが受けていることに驚いたという。本人に語ってもらおう。

「土曜の午後6時。お父さんがリビングで大河ドラマ『西郷どん』を見ていると、ソファに座っていた彼が食い入るように見ていたんです。日本語……というか薩摩の言葉なんてわからないし、登場人物も全然知らないはずなのに。『楽しい?』って聞いたら、『うん。こういうの見たことないから』って言われたんですね。それで、『大河ドラマって海外ウケいいのでは?』と思ったんです。

 歴史を知ったら、外国人にとっても観光はもっと楽しくなります。たとえば、大政奉還の意味を知れば、二条城観光がさらに楽しくなる。京都だけではなく、鹿児島や山口、福島、五稜郭がある北海道などにももっと注目が集まるかもしれません。
 わたし自身、ドイツ留学中の授業で、壁崩壊後の東ベルリンを舞台とした『グッバイ、レーニン!』という映画を見たことがあります。そのときはよくわからなかったけど、その後ベルリン旅行でDDR(旧東ドイツ)博物館に行って『なるほど!』と理解が深まりました。
 逆に、小学生のときに行った中国の天安門広場は、歴史の知識が全然なかったので『写真が飾ってある広場』くらいにしか思えなかったんです。せっかく行ったのに、もったいないことをしました。知識があれば、もっと違う感じ方をしただろうから。

 観光地でも歴史を知らないと楽しめない、知るともっと楽しくなるところって、多いですよね。日本の歴史は独特なので、それを海外にアピールすることでより日本に興味をもってもらえるんじゃないかと思います」

 日本の歴史なんて興味持ってもらえるの? そう思う方もいるかもしれないが、実際にドイツで売っている日本のガイドブックを知れば、そんな考えも消えるのではないか。

「ガイドブックのなかでは、芸者や神道、生け花、和紙、浮世絵、さらには草食系男子などが紹介されている。レストランやホテルの情報はあっさりしているが、そのぶん歴史と文化について詳しく書かれている。
 皇居や明治神宮が何年に建てられて、どんな人が住んでいて、それが日本にとってどんな存在なのか。そもそも天皇とはなにか。ドイツ人の観光客は、ガイドブックでそういったことを予習してから来るのだ」(『日本人とドイツ人』)

 日本の場合、特にテレビの旅番組に顕著だが、旅行というと「グルメ」「温泉」「いい宿」といったニーズに焦点があてられることが多いが、少なくともドイツ人の場合、旅行前にきっちりと歴史などを予習する「知的好奇心を満たす旅」を好む人は少なくないのだという。
 そのあたりを踏まえれば、大河ドラマは格好のガイド役になりえるのでは、と雨宮氏は言う。
 考えてみれば、日本でウケている海外ドラマは韓流に限らず、その国の歴史を描いたものは少なくない。韓国の歴史をまったく知らなかったけれども、「宮廷女官チャングムの誓い」から興味を持ったという人もいるし、もっと古くは「ベルサイユのばら」でフランスに憧れた人もいる。
 予算やキャストの面で日本ではトップレベルの大河ドラマをどんどん売り込んでみるのは、アイドルの輸出よりも建設的なプロジェクトになるのかもしれない。

デイリー新潮編集部

2018年11月26日掲載

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