なぜ日本文化は世界で人気なのか? 欧米を席巻したクール・ジャパン

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 昨今、政府主導のクールジャパン戦略が注目を浴びている。ファッションやアニメ、漫画や音楽などのポップカルチャーから、伝統工芸品や和食まで、様々なジャパニーズ・カルチャーを官民一体となって海外に売り込んでいる。官主導の戦略も盛んだが、下からの動きも見逃せない。

■世界に浸透するジャパニーズ・カルチャー

 インターネットの普及により情報の伝達コストは下がり、世界のだれもが簡単に日本の文化にアクセスできるようになった。「ニコニコ動画」「YouTube」などの動画サイトでは欧米人が日本のキャラクターの姿で踊り、日本発のイラスト投稿SNS「pixiv」には日本文化に憧れる外国人の割合がどんどんと増えている。

 NYやパリなどにもこの動きは伝わり、なかでも20世紀末以来、ロリータ、ゴスロリなど日本のストリート・ファッションの台頭が目覚しく、服飾研究家の深井晃子は次のように分析している。
「そのイメージ、デザインは明らかに西欧の過去の様式(ロココ、ゴシック、ヴィクトリアンなど)を、脈絡なく無邪気に引用していた。とはいえ、それを統括する〈かわいい〉という感性こそは、日本独自のものだった。また、重ね着、特に男子の女性的な服装に指摘されるユニセックス性、既存の着装ルールにとらわれない自由度等も、極めて日本的だといえよう。世界が、日本のストリート・ファッションに注目したのは、西欧の歴史的な様式と日本の現代がフラットに混在する点だったし、またそれがポップだった点にある」(「芸術新潮」7月号より)

 日本を訪れる外国人旅行者も昨年は1000万人を超え過去最高を記録した。特徴的なのは訪日観光客の57%が2回目以上のリピーター(平成23年観光庁調べ )で、日本の市井の人々のおもてなしの心、日本文化の魅力が外国人観光客の心に確実に響いていることを示している。

■1世紀前の“クール・ジャパン”

 しかし旅客機もネットもYouTubeもニコニコ動画もなかった時代、19世紀半ばから20世紀初頭にかけ、欧米を席巻した日本ブームがあった。印象派の画家たちも、アール・ヌーヴォーの工芸家たちも、ファッション・デザイナーも、そして市井の人々も、誰もがみな、日本の文物にぞっこんでした。彼らが見出した1世紀前の“クール・ジャパン”とは?

 6月28日より世田谷美術館で「ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展 印象派を魅了した美」が始まる。日々の生活や芸術作品に日本文化を取り入れる――欧米で流行したその「ジャポニスム」とは何だったのか?

■団扇、扇子はマスト・アイテム
 1854年の開国前後から、膨大な数の美術工芸品が欧米に渡った。なかでも団扇、扇子はそれぞれ年間約100万本の輸出量。モネ、マネ、ドガ、ゴーギャン、ホイッスラーなど名だたる画家たちも作品に団扇や扇子を登場させたり、扇面画を描いてみたり、ブームを見逃さなかった。

クロード・モネ《ラ・ジャポネーズ(着物をまとうカミーユ・モネ)》
1876年 ボストン美術館蔵
「ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展 印象派を魅了した美」出品作
1951 Purchase Fund 56.147 Photograph©Museum of Fine Arts, Boston.

■色彩や構図、モティーフも日本に倣え
 写実性に重点を置いていた欧米の画家たちは、浮世絵をはじめとする日本の絵の豊かな色彩、自由な構図にも衝撃を受けた。加えて草木や昆虫など小さな動植物をモティーフにする感性にも驚く。浮世絵を参考に描いてみたり、自然をモティーフにしてみたり、日本的感性は欧米に新たな美の世界をもたらしたのだった。

■職人の地位向上に貢献
 西洋ではかつて、絵画、彫刻、建築こそ芸術とされ、版画家や工芸家は芸術家扱いされていなかった。いっぽう日本に目を向けると、北斎は肉筆画も版画も団扇絵も描いたし、尾形光琳も肉筆だけではなく蒔絵箱など工芸品も手がけた。分け隔てない制作に西洋人は驚き、やがて日本における美の捉え方は、西洋のデザイナーや工芸家の地位向上に貢献したのだった。

 ほかにも室内装飾やグラフィック・デザイン、ファッションまでジャポニスムは幅広く浸透した。日本食や日本発のブランド、現代美術などに代表されるネオ・ジャポニスムが到来するいま、改めて日本文化を見直してみよう。

芸術新潮」7月号では、日本文化の底力を再発見できる特集「もっと素敵にジャポニスム なぜ日本文化は世界で人気なの?」を掲載中。現代美術やコスプレ・アニメ、和食や映画など今NYやパリで人気のニッポンも現地リポートにてお伝えする。

ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展 印象派を魅了した美
6月28日~9月15日 世田谷美術館
http://www.boston-japonisme.jp/

デイリー新潮編集部

芸術新潮 2014年7月号掲載

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