戸田恵梨香が「大恋愛」で演じる“女っぽい病人”を 辛口コラムニストが絶賛の理由

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薄幸と多幸を行ったり来たり

 圧巻だったのは第3話、元婚約者同士・医者同士の戸田と松岡が、患者と医者とに分かれて今後の治療方針を話し合うシーン。ゆっくりと時間をかけて記憶を、つまりは恋愛も仕事も失っていくという見通しにあらためて絶望した戸田が、「こんな思いするんだったら余命3カ月って言われた方がずっと楽だった。もう生きているのが嫌だと思ったら先生、殺してくれますか」と取り乱し、そのあとで「ごめんなさい、わがままを言って」と謝りながら、左右の手のひらで両頬の涙をぬぐって、松岡に向き直る。

 ワタシは何年ぶりか思い出せないほど久方ぶりに、TVの連ドラの役者の芝居を見て脊髄に電流が流れました。

 TOKIO松岡がよりによって若年性認知症研究の第一人者、しかも、戸田に効果があるかもしれない新薬の治験まで始めようってタイミングゆえ、私生活では婚約を蹴っ飛ばした相手であるにもかかわらず、治療では主治医として頼っていく。そういう、偶然の積み重ねとご都合主義のプレミアムブレンドみたいなアクロバティックな設定さえ、あの戸田の演技を生み出すためなら、必然として許せてしまうレベル。

 これが天国と地獄のうち地獄側の芝居の代表格だとすれば、天国側の芝居、つまりはムロツヨシと切れたりくっついたりの行きつ戻りつを繰り返しつつ螺旋状に、でも急速に深い仲・いい仲になっていくときの戸田もまた、いい。

 やっぱり第3話、オクトーバーフェストに2人で出かけて特大ジョッキで旨そうなビールぐいぐい呑んで、フォークダンスを腕組んで踊るシーンなんて、セリフ極少、短いカットの積み重ねだけなのに、そこに映ってる戸田の表情は、名画に描かれたたような多幸です。

 ほとんど初めて、何度もしげしげと戸田を眺めていて再確認したのは、彼女の顔立ちが、実はかなりの薄幸系であること。面長色白で頬骨が出ているあたりはミア・ファロー(73)とかシシー・スペイセク(68)髣髴だし、上の歯茎の露出が多めな点からは中島朋子(47)が頭に浮かぶことも多い。

「ローズマリーの赤ちゃん」「キャリー」「北の国から」。幸薄い娘たちとして売り出した先達の女優たちがときおり浮かべる幸せそうな表情はおよそすべて絶品で、嘘だろと疑うアナタはスペイセクの「歌え! ロレッタ愛のために」やファローの「カイロの紫のバラ」、中島の「あさってDANCE」あたりをぜひ。

「大恋愛」の戸田も、薄幸さをスタート地点にしつつ、ディープな不幸とディープな多幸の両極端を巧みに行ったり来たり。かわいそうだったりうらやましかったり、見てるコッチも絶叫マシンの乗客のように上下左右前後に激しく揺さぶられます。

 そんな戸田の名演を引き出してる脚本も、これまでのところ上出来。これまた第3話の話で恐縮ながら、幸福の絶頂の床が、戸田のたった一言のセリフでスポンと抜けて、そこから不幸のドン底が覗き見えるラストは、さすがの大石クオリティだった。

 もちろん、あの「ふたりっ子」(96~97年)で、“NHKの朝ドラなのに何でもありの自由自在融通無碍”という伝統を打ち立てた大石だけに、「大恋愛」でも腰と度肝が抜けるような今後を用意してる可能性がないわけじゃない。それゆえ、ま、ちょっと覚悟はしておけと自分に言い聞かせつつ、最終回まで付き合おうという覚悟が定まってきたところですわ、「大恋愛」。

「ま、ちょっと」どころか、視聴率の右肩上がりが続いて最終回は延長スペシャル、平均視聴率2桁という所属事務所との約束がみごと果たされて戸田は実生活でも結婚──という、マジでメタフィクショナルな展開さえ考えられるわけですが、「家に帰るまでが遠足」論法でいけば「戸田の婚活完了までが『大恋愛』」というプロジェクトなのかもしれず、ま、愉しみは続きます。

林操(はやし・みさお)
コラムニスト。1999~2009年に「新潮45」で、2000年から「週刊新潮」で、テレビ評「見ずにすませるワイドショー」を連載。テレビの凋落や芸能界の実態についての認知度上昇により使命は果たしたとしてセミリタイア中。

週刊新潮WEB取材班

2018年11月2日掲載

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