「働き方改革」が日本を亡ぼす――当の厚労省が実現できず

国内 社会 週刊新潮 2018年10月18日号掲載

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「無い袖は振れない」はずだ。業務量は変わらないのに、労働時間だけ短縮できるわけがない。それにもかかわらず、「袖を振」るように強いているのが、今の「働き方改革」である。これまで勤勉の結果として「袖」を勝ち取ってきた日本人だが、勤勉自体が否定されれば、「袖」は永遠に得られない。もはや堂々巡りである。

 言うまでもなく、働き方改革は安倍政権の目玉政策の一つだが、その旗振り役である厚生労働省の職員に尋ねると、

「省内は、とても改革が実現できているとは言えない状況です。定時を過ぎると上司から、消灯して帰るように言われます。でも、仕事が減っているわけではないので、いったん電気を消して、また点けて仕事をすることも多い。0時を過ぎても厚労省をはじめ、各省庁の灯りは普通に点いていますし、国会の時期などは朝帰りも多いです」

 だから、今年7月25日に発表された、霞が関で働く国家公務員の「残業実態アンケート」を見ると、厚労省は月平均残業時間が53・1時間で、80時間以上の人の割合が19・2%、過労死の危険を現在感じている人が11・1%で、過去に感じたことがある人は58・9%に上っている。

 要するに、働き方改革などできっこないことは、当の厚労省が一番よく知っているのである。

 資格試験にたとえて話すのは、経営コンサルタントの横山信弘氏で、

「行政書士の資格をとるための勉強時間の目安は1千時間程度。個人差はありますが、“ワークライフバランスを保ちたいから勉強時間を500時間にしたい”と言っていたら、永遠に合格できません。同様に、現場が目標達成のために頑張っているのに、管理部門がとにかく残業を減らすことを目標にすると、成果に結びつかなくなります」

 その結果、こんな悲惨な結果にもつながる、と話すのは、「働き方」評論家の常見陽平氏である。

「ホンダの販売店、ホンダカーズ千葉の店長だった男性が、うつ状態と診断された後、懲戒解雇され、自殺してしまったのです。この人は、部下の残業時間を減らすために自分が長時間労働を続け、疲弊していたそうです。管理職には労働時間の規制がないので、このように部下の代わりに働いて、追い込まれてしまうケースがあるんです」

 では、部下たちは喜んでいるのかというと、問題はさほど単純ではない。

「働き方に関する勉強会で、企業やビジネスパーソンの意見を聞くと、本当はバリバリ働きたい、やる気のある若手社員が、残業時間を減らしたい会社から、早く帰るように促される、という矛盾を耳にします。若くてやる気があり、生活面で融通がきく社員が、残業時間を制限され、がむしゃらに頑張る経験を積めなくなるのは、長期的に見て、個人にとっても会社にとっても損失だと思います」(同)

 日本人の美徳と語られた勤勉が、失われたわけではない。ただ、無理にでも失わせようと、国を挙げて取り組んでいるのである。

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