中国「キャッシュレス社会」のジレンマ(中川淳一郎)

社会週刊新潮 2018年10月11日号掲載

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 中国・深(しん)セン(センは土へんに川)と香港に行ってきました! メシはウマい! みんないい人! とにかく素晴らしい体験をしました! とはいっても、昨今の「中国はすげー。もう日本はダメ」的な日本のメディア及びネットの一部の論調についてはかなりの違和感を覚えたのも事実です。

 中国の凄さを示す根拠としては、「経済成長」に加え、「キャッシュレス」やら「年収が上がった」「様々なことが自動化」といったところが挙げられます。その際に、日本がいかに衰退しているかをセットにし、日本がガラパゴス化し、世界から置き去りになっていると嘆く識者が登場します。

 確かに香港でも深センでもものすごく活気があり、人も大勢いる。イルミネーションの派手さや建造物の巨大さなども日本では見ることができないものばかり。しかしながら、多分「サービス」に対する考え方においてはキツいですね。

 香港西九龍駅から中国本土に向けて高速鉄道(新幹線みたいなもの)が9月23日に開通し、広東省の広州南駅まで、さらには北京や上海などにも列車での接続が実現されました。というわけでこの最新鋭の列車に乗ったのですが、まず切符を買うのが大変過ぎます。たかだか15分の中国本土の最初の駅「福田」まで行こうとするのですが、開通3日目ということもあってかオペレーションは大混乱。

 13時に駅に到着したら切符売り場が大行列で、窓口に到着したのは14時20分。45分前までに搭乗口へ行けという指示が出ていたのでギリギリの15時23分発の切符を同行者も含めて4人分購入しました。VISAのクレジットカードで購入したのですが、窓口係がカード名義人の名前を打ち間違えたほか、パスポート絡みで同行者4名の名前も打ち間違え、何度もやり直す。

 ついにはカードのやり取りに疑念が発生したのか、動かなくなり、上司が1人やって来て直そうとするものの、その人がますます混乱に拍車をかけます。さらにそのまた上司が来て、ようやく支払いはできたのですが、この段階で14時48分になっていた。なんと、4枚の切符を買うのに28分もかかりました。「45分を切ったが大丈夫か?」と聞くと大丈夫と言うのでそのまま進んだら全然大丈夫ではなかった……。

 中国からすれば「香港は我が中国のもの」と言いたい一方、自治意識の高い香港からすれば「いやいや、それは困る」ということで、この路線では出入国をめぐり妙なせめぎ合いが行われているんですよ。その割を食うのが外国人です。

 改札→荷物検査までは皆同じなのですが、その後、香港人と中国本土の人はスムーズに中国への入国手続きが自動でできるのに、外国人は中国の役人がいる別の列に並ばなくてはなりません。役人の人数が少ないので、長時間並び、さらにそこに来て初めて各種書類が必要だと伝えられ、並び直さなくてはいけなくなる。切符を売る時に予め渡しとけよ! 顔認証、指紋認証もあり、発車時刻を過ぎました。結局その後の16時25分発の電車に乗るには切符を買い直す必要があり、帰路の切符代の50%はバックされたものの、本来の金額の1・75倍を支払う結果に。わずか15分電車に乗るために3時間25分もかかってしまったのです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。