遺伝子操作で「がん」増殖を阻止 日本の研究チームが取り組む「ゲノム編集」とは

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がん細胞は機能停止

 共同研究者である川崎医科大学准教授の深澤拓也氏が話を継ぐ。

「肺がんと言いましても大きく4種類あって、マウスで実験したのは扁平上皮がんで、他に小細胞がん、大細胞がん、腺がんがあります。肺腺がんは、ゲフィニチブやエルロチニブといった優れた分子標的治療薬の登場で、投薬した7割の患者さんに効果が見られます。一方で、なかなか決定的な治療法が見つからないのが扁平上皮がんなのです。別名たばこ肺がんと呼ばれ、新しい治療薬のペンブロリズマブを使っても、2割程度の患者さんしか効果が出ない。食道がんにも多く見られるタイプのため、実験のターゲットにしたのです」

 けれど、まだまだ課題は多いとは先の佐久間氏で、

「どれだけ効果的に、がん細胞を抑制する機能のあるタンパク質を、ヒトの体内に注入できるかがポイントになります。実際に使用する場合は、複数の遺伝子に作用させるウイルスを運び役にして、静脈注射などではなく、肺や食道の患部に内視鏡を使って直接注入させる方法を考えています。これが、がん細胞にきちんと感染してくれれば、がん細胞は機能停止して、死滅させることができると考えています」

 その場合、標的遺伝子への感染効率が高いと評判の「アデノウイルス」が用いられるという。今回の実験では無害化されているものの、正常な細胞に感染すれば免疫を過剰に誘導してしまうため、使用にあたっては量を守るなど安全性への配慮が必要となる。

 深澤氏はこうも言う。

「ヒトの治験に進んだ場合、患部に内視鏡を使っての限定注入などの工夫が必要になるかもしれません。私は外科医なので、手術で患部を切除した後に増殖を抑えるなどの使い方を考えています。臨床の前段階ですから、実現まで何年かかるか分かりませんが、最終的には飲み薬のような形で、患者さんに届けられればいいですね」

 がんという難敵を前に、研究者たちの研鑽は続く。SF映画のような世界は、もはや夢物語ではないのだ。

週刊新潮 2018年10月4日号掲載

特集「人類最大の敵『がん』撲滅に現れた最終兵器」より

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