“トンネル爆破未遂事件”もあった「天皇陛下」の鉄道事情 平成で一変

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今上陛下の“御召”事情

 御召列車というと天皇皇后が乗車する御料車がまず目に浮かぶ。その代表は「新1号」と呼ばれる昭和35年製の御料車である。この車両に戦前製の供奉車4両を前後につけた編成を「新1号編成」といった。昭和天皇専用の車両だった。他に貴賓電車としてクロ157系も昭和35年に落成し、この電車はもっぱら御用邸などへの非公式の移動に利用した。

 戦前は天皇のほか皇太后、皇后、皇太子専用の御料車があり、行幸啓の際には、それぞれ自分の御料車で出かけていた。では現天皇専用の御料車はあるのかといえば、JR東日本のE655系に連結される「特別車両」がそれに当たるだろう。平成も20年になってからの落成で、平成20年11月12日の茨城行幸啓の際、スペイン国王・王妃とともに乗車したのが最初。ただしその後約10年間でこの「特別車両」に乗車したのは、たったの5回しかない。なんとももったない話である。(「特別車両」を連結しないE655系編成=「なごみ」編成に乗車機会が7回あるが)。

 では現天皇はどんな車両に乗っているのだろう。調べてみると、実にバラエティに富んだ列車に乗車している。私鉄車両にも乗る機会が多い。西武の5000系(旧レッドアロー)・10000系(新レッドアロー)、近鉄の21020系(アーバンライナー・ネクスト)・50000系(しまかぜ)、箱根登山鉄道の2000形、わたらせ渓谷鐵道のWKT-501(これは私的な旅行)、つくばエクスプレスのTX2000系、ちょっと変わったところでは、埼玉新都市交通の2000系、大宮〜鉄道博物館間に乗車している。これなどどうしても乗らなければならないものではないだろう。御召とは「大人の事情」も含め、様々な事情で運転されるのだ。

 御召列車の運転は、鉄道員にとって「緊張と栄光の現場」である。来年から始まる新時代に御召列車運行の伝統は引き継がれるだろうか。歴代天皇で初めて伊勢神宮を訪れたのは明治天皇だそうである。大正天皇も昭和天皇ももちろん伊勢神宮を訪れ、現天皇は最初の御召列車で伊勢神宮へ行った。

 さて新天皇の最初の御召列車はどこへ向かうのだろうか。新時代を拓く御召列車になるのかどうか、今から楽しみである。

田中比呂之(たなか・ひろし)
1957年生まれ。新潮社勤務(「日本鉄道旅行地図帳」シリーズ等を編集)を経て、2017年フリーに。

2018年9月30日掲載

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