メモに表れた“東條の浅薄な天皇観” 「東條英機メモ」が語る「昭和天皇」戦争責任の存否(保阪正康)

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「東條英機メモ」が語る「昭和天皇」戦争責任の存否――保阪正康(下)

 7月23日付の「読売新聞」が「湯沢メモ」について報じた記事は、開戦前夜、東條英機が昭和天皇の「決意」などを部下2人(内務次官の湯沢三千男と陸軍次官の木村兵太郎)に興奮気味に語ったというものだった。ノンフィクション作家の保阪正康氏は、この“スクープ”をどう読み解いたか。

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 開戦前日、東條は天皇に上奏している。『昭和天皇実録』によると、天皇はこの日午前に短時間、陸軍大臣としての東條に会っているが、どのような会話が交わされたかはこの『実録』でも不明である。しかし想像すれば、開戦の準備が全て整ったことを告げたのであろう。そしてこの日の午後8時半から官邸に湯沢と木村を呼んで、開戦日の通達、開戦に当たっての注意事項などを伝えたのが、件のメモであると思われる。

 この時の東條の発言と感情の昂りを、読売新聞の「湯沢メモ」から引用してみる。

〈明日愈(いよいよ)対英米戦ノ開始及国民ニ対スル処置等決定セラレタル旨総理ヨリ伝達アリタリ。総理ハ重荷ヲ降シタル如ク之(これ)ニテ全ク安心セリト言フ。殊ニ今回ノ事ハ《聖上陛下ノ御決意ニ基ヅキ全軍一体トシテ大命ヲ奉ジ》一糸乱レザル軍規ノ下ニ行動スルコトヲ得タルハ感激ニ堪エズ〉

〈又曰ク「陛下ニ於カセラレテ幾分ニテモ対英米交渉ニ未練アラセラルレバ之ガ何処(ど こ)カニ反映シテ暗キ影ガ生ズベシ。之無カリシ事即チ《御上ノ御決意ノ結果ナリ》」ト。総理ハ微醺(びくん)ヲ帯ビ「全ク安心セリ。斯クノ如キ状態ナルガ故ニ既ニ勝ッタト言フコトガ出来ル。」ト必勝ノ信念ヲ吐露サレタリ〉(※《》部分、筆者)

 この部分が今回の報道の“肝”といえるものである。

 東條は興奮を抑えられず、天皇が覚悟を決めてくれた段階で「すでに勝った」と断言している。このあまりにも拙劣な指導者の言に、しかもほろ酔い状態での発言に、どこまで歴史的な意味を持たせられるか、難しいといえるだろう。

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