甲子園「登板過多」問題を感動でごまかしていいのか

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練習試合でも連投

 予選で勝ち抜くためだけならまだしも、公式試合ではないときでも、ついエースを登板させてしまっていた、という。

「練習試合などもその傾向がありました。“目の前の相手を倒すことによってチームが成長する。(この試合は)カギを握るゲームなのだ”と僕自身が勝手に思ってしまうところがあったのです」

「夏の大会を控えた6月くらいになると、最後の追い込み期間になります。高校野球にとって大事な時期です。ですから、この時期というのはほとんどの練習試合が強豪との試合になるんです。そうなってくると、どのチームもエースの登板が増えます。強豪を相手に勝ちたいという欲が(監督自身に)出てくる。また、遠くから遠征に来ているチームが相手であった場合も『エースを出さないのは失礼だ』みたいな空気もあるんですよね。そこを変えるのは難しい」

 つい甲子園大会や予選にばかり目が向くが、実際にはそれ以外の場面での酷使も生じうるというのだ。さらに、高校入学以前の問題もある。

「松本から聞いた話なのですが、少年野球をやっていた時、彼は公式戦の全試合で投げたそうです。つまり60連投くらいはしていた、ということです。もちろん少年野球は毎日試合をしていたわけではないので60日間連続ということではありませんが、60数試合の連投をこなしていたそうです。それを知った中学のボーイズの指導者は、中学時代の松本には登板を控えさせたと聞きましたが、野球界にはいろんなところに勝利至上主義の問題があるのだと思います。実際、私たちのチームには、小中学校時の投げすぎで手術を経験して入部してくる子や、ケガの影響で一球もブルペンで投げることができないまま卒業していく選手もいます。そうした現状を支配しているのは、勝ちたいという指導者のエゴではないでしょうか」

 金足農の準優勝、吉田投手の大活躍はたしかに素晴らしい。しかし、だからといって過去の教訓を無視し続けるべきなのか。

 冒頭に引用した社説が掲載された日の朝日新聞夕刊「素粒子」欄には同校を讃えるこんな文章が掲載されていた。

「望みかなわず、敗れ去る/うだる暑さの甲子園球場/銀傘(ぎんさん)に賛辞がこだました/よくやった。胸を張って/歌おう、栄冠は君に輝く」

 美談に仕立てて幕引き、で「大会運営を巡る課題」が改善されるのだろうか。

デイリー新潮編集部

2018年8月24日掲載

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