問題続出! そもそも「部活動」って必要なの?

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閉鎖的な集団の問題点

 日大アメフト部の一件は極端だったにせよ、学校の「部活動」などが独自のルール、上下関係によっておかしな方向に進む例は珍しくない。厳密に言えば部活動ではないが、最近では早稲田大学交響楽団のトラブルも「週刊文春」で報じられている。

 共通するのは、集団が持つ閉鎖性の弊害だろう。学校そのものが閉鎖的な存在であるのに加えて、その中にある集団となると、二重の閉鎖性を持つことになる。特に学内で名門とされるような集団になると、その内部のローカルルールや特殊な人間関係の問題点が可視化されないために、病が深刻になっていくことがあるのだ。

 こうした部活動の持つ問題点をどうすればいいのか。

 一つのヒントは、海外の事例である。ドイツ在住のフリーライター、雨宮紫苑氏は現地での「市民クラブ」のあり方を著書『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』の中で紹介している(以下、引用は同書より)。

 そもそもドイツには、日本的な部活はないのだという。そのかわりにあるのが「フェアアイン」だ(「フェライン」と表記されることもあるが、発音的にはこちらのほうが近いとのこと)。日本語にすれば「協会」「クラブ」となる市民団体で、日本でいえば地域のスポーツクラブやカルチャーセンターをイメージするとわかりやすいとのこと。

「ドイツではこのフェアアインがとにかく活発で、フランクフルトがあるヘッセン州には、住民1千人に対して80くらいのフェアアインがある。各学年300人ずついる中学校に、部活が80ちかくあるようなものだ。

 2009年、7歳から14歳の男子の82・4%、女子の63・1%が、フェアアインでスポーツ活動をしていた。文化活動も含めると、割合はもっと上がる。あまりに種類が多いので正確な統計を挙げるのはむずかしいが、全人口の3割くらいがこのフェアアインに参加している、という推定値を出している統計が多い。

 フェアアインには、鉄板のスポーツはもちろん、陶芸やワイン造り、ヨガ、写真撮影など、さまざまな活動ジャンルがある。同じサッカークラブでも、勝つことを至上主義として週5回みっちり練習するクラブもあれば、週1回適当にゲームをするだけのクラブもある」

ゆるいクラブもある

 参加は自由なので掛け持ちもできる。参加も退会も自分次第で、忙しければゆるめのクラブに入ればいい。スポーツによっては第1リーグ、第2リーグ、第3リーグとレベル分けされているので、初心者は下位リーグに入ればいい。それなら試合への出場機会にも恵まれやすいし、上達すれば上のリーグのクラブに加入することもできる(当然ながら、上達しないで上位リーグに入るのは無理である)。

「学校の部活のように『未経験者だから玉拾いから』『3年間ベンチ要員』なんてことは稀だ。

 日本の部活のように2年半で強制的に引退、ということもないので、ライフステージが変わっても活動を続けられる。

 ちなみに、わたしが3回ほど行ったバドミントンクラブは、月10ユーロ(1300円ちょっとくらい)の参加費だった。

 わたしは現在フェアアインに入ってはいないが、在宅フリーランスとして働いていて引きこもりがちなので、なにかしらのフェアアインに入ろうと思っている。初心者向けのヨガやアーチェリーもいいし、ドイツ料理のクラブなんかもいいかもしれない。いろいろと顔を出してみて、おもしろそうなところがあれば入会するつもりだ。

 この市民クラブのいいところは、学校外に居場所を見つけられること、そしていろんな人と交流できることだ。

 子どもにとって、家と学校以外にコミュニティがあるというのは魅力的だ。やりたいことをやりたい頻度でできるし、困ったことがあれば気心の知れた大人に相談もできるし、他校の友だちにも会える。

 わたしのパートナーが参加している卓球クラブには、20代から50代くらいまで、さまざまな人がいる。彼が40代のチームメイトに進路相談をしたり、逆に年下のチームメイトに大学での様子を語ったりしているのを見て、私がいかに同年代だけとしか関わっていなかったかを思い知った。

 また、フェアアインは生涯スポーツ・社交の場にもなりえる。日本では団塊世代が定年を迎えたことを踏まえると、退職した人が同じ趣味の人と語り合ったり若い人と交流できる場は、日本社会でも大切になってくるだろう。

 規定内なら税金が免除されるので、副業としてフェアアインのコーチをしている人もいる。ちなみにわたしのパートナーも、同じフェアアインで子どもたちのコーチとしてバイトをしていた。サッカー留学に来ている日本人の友人も、コーチのライセンスを取ってフェアアインで働いている」

 雨宮氏は日本の高校では弓道部に所属していたが、さまざまなローカル・ルールに疑問を抱いたという。改めて、自身の経験を踏まえながら、こう語る。

「練習の準備も後片付けも後輩の仕事で、部室の鍵を職員室に返しに行かなきゃいけないから、先輩が部室でダラダラ漫画を読んでいても待たなきゃいけない。そのぶん、部内でトラブルがあったら先輩が責任をとらされる。たった1、2歳しかちがわないのに、先輩は後輩に雑用を丸投げして、後輩は『先輩が言ったからやった』と先輩に責任を押し付ける。そんな先輩絶対主義ってどうなんだろうと思っていました。

 バイトをするようになってからも、同じような場面を何度も見ました。後輩は雑用をするのが当然で、先輩より先には帰らない。先輩ってだけで、上司でもないのに命令してきたり、偉そうにしたりする人もいました。日本の労働環境の特殊さは広く知られるようになりましたが、その一因に、学生時代から刷り込まれる『部活動の理不尽』という下地がある気がします」

 もちろん、部活動に美しい思い出を持つ日本人は少なくないだろう。理不尽ですら今となっては良い経験だと振り返る人もいるかもしれない。

 ただ、それが本当にみんなのためになっているかは考えたほうがいいだろう。

 参加や退会が自由で、年齢制限もないフェアアインは、基本的に地域に開かれており、オープンな場で行われることになるため、部活動よりも閉鎖集団化しづらい。

 また、そもそも部活動が、スポーツの強化につながっているのかも冷静に見たほうがいいのかもしれない。少なくともサッカーなどを見る限り、日本がドイツに勝っているわけではないようである。

デイリー新潮編集部

2018年8月21日掲載

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