遠足や運動会にゆで卵はNG? 出雲地方のある町の人々が「卵を食べない」理由

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 この夏休みに、「縁結び」で名高い出雲大社に詣でた人もいたことだろう。出雲大社だけでなく、出雲地方の神社はアラサー、アラフォーの女子に、パワースポットとして大変人気があるのだが、神様の力がいまも信じられている証拠かもしれない。

 そんな出雲地方で、「神話を信じて卵を食べない町」があるのをご存じだろうか。米子鬼太郎空港からバスで40分の美保関町である。日本海に面した、穏やかで風光明媚なこの町には、出雲神話に登場する歌舞音曲の神様「事代主神(ことしろぬしのかみ・えびす様のこと)」をご祭神とする美保神社がある。創建1千年以上の古社だ。

 その美保関町をことのほか気に入っていたのがギリシャ生まれながら日本国籍を取得し「怪談」で有名な作家の小泉八雲ことラフカディオ・ハーンだ。彼は、随筆にこう記している。「美保関には、雄鶏も雌鶏もいないし、ひよこも卵もない」と。

 そんなこと言っても100年以上前の話でしょ?と思ったら、ノンフィクションライター・野村進さんの『どこにでも神様 知られざる出雲世界をあるく』によると、美保神社のすぐ近くで営業している喫茶店「クリフネ」のメニューには、今でもタマゴサンドもオムライスもなければ、スクランブルエッグもフライドチキンも卵白をつかうケーキもないというのだ。

 いったいこれは、なぜなのか。

 野村さんは「それは、卵や鶏肉が、事代主を襲った災難に直結するからだ」と語る。

 出雲神話によると、事代主は夜遊びが大好きで、毎朝、一番鶏の鳴き声を合図に帰宅していたが、ある夜、雄鶏が時を間違える。あわてた事代主は帰る途中、舟を漕(こ)ぐ櫂(かい)を海に落としてしまう。仕方なく左足を櫂の代わりにして漕ぐ事代主。そこにサメが襲いかかり、左足を噛みつかれ大けがをしてしまった。以来、地元では敬愛する事代主に迷惑をかけた鶏はとんでもない奴とされ、この地では関わること相成らぬとなった……という次第。

 美保関町では出雲神話のエピソードが、21世紀の暮らしのなかでも脈々と息づいているというわけだ。

「一般の家庭でも、子どもの遠足や運動会にゆで卵を持たせないところがけっこうある」(前掲書)。出雲はまだまだ思わぬ発見に満ちているといえようか。

デイリー新潮編集部

2018年8月17日掲載

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