他の宗教を渡り歩いた信者が「オウム」を選んだワケ 教団の洗脳技術を読み解く

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サイコキラーの事件ファイル オウム真理教「麻原彰晃」――小田晋(2/5)

 オウム事件を振り返るうえでの最大の疑問は「なぜ、麻原彰晃はあれだけの権力を手にできたのか」。そこには、麻原元死刑囚が身に付けた“技術”があった。精神科医の故・小田晋氏がFOCUS(休刊中)に寄せた「サイコキラーの事件ファイル 狂気のマインドコントロール・プログラム」、その後編である。(※以下の記事はFOCUS 1999年5月19日号掲載時のもの)

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――史上最悪のカルト教団、オウム真理教。教祖の麻原彰晃(本名=松本智津夫)は、超能力獲得を喧伝して信者を増やし、神秘体験を通じて、彼らをマインドコントロールした。むろん、神秘体験とは、科学的に解釈可能な「変性意識体験」(アルタード・ステイツ・オブ・コンシャスネス=ASC)にすぎない。が、オウム真理教はASC到達への高い技術を持っていた。独房に信者を閉じ込め感覚を遮断。飢餓や睡眠剥奪を利用し幻覚、幻聴を導いたのだ。さらに、独自のASC到達技術を確立。無差別殺人に信者を駆り立てたマインドコントロール法。

 オウム真理教が使っていたASC到達技術の中には、それまで研究者も気付かなかった方法さえ含まれていました。例えば、オウムがよく宣伝していた「水中クンバカ」や呼吸法などです。彼らの言う「水中クンバカ」とは、息をこらえて水槽に身を沈める修行のことですが、実は、これは中々合理的なASC到達技術だったのです。つまり、信者は水槽に入るわけですから、重力の感覚まで遮断されます。呼吸も停止させるため、酸素欠乏で意識は朦朧とし、幻覚が出たり、暗示に掛かりやすくなってしまうわけです。

 逆に、呼吸法の修行で、深呼吸を何度も行えば、血液中の炭酸ガス分圧が極端に下がり、酸素分圧が高まります。血液中のバランスが崩れ、今度は過呼吸症候群と呼ばれる状態となるのです。例えば、一昨年に起きたポケモン騒動は、脳波が賦活されたせいですが、深呼吸も異常脳波を賦活します。二つとも、よく考えられたASC技術と言えるでしょう。

 また、オウム真理教は、衆議院選挙に敗れた後は、もっと直接的にASCを起こすように、薬物さえ利用しました。その一つがバルビツール系の睡眠薬です。これは、かつて共産圏の秘密警察が使用していた自白剤で、別名「真実の血清」と呼ばれている薬です。これを注射されると、抵抗力が弱まり、秘密を喋ったり、暗示に掛かりやすくなる。まるで、催眠術にかかったのと同じような働きをするわけです。

 さらに、幻覚剤のLSDやメスカリンまでが使われていました。LSDは万華鏡のような幻覚や恐ろしい情景を見る薬で、メスカリンはパラダイスのような幻覚を見ます。つまり、オウム信者たちはLSDによって、ハルマゲドンの到来を植え付けられ、メスカリンで天国や死後の世界のイメージを与えられていたのでしょう。これに、アストラルミュージックや尊師の説法テープのようなAV技術が加わって、幻覚を一定方向に誘導していたと考えられるのです。

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