現在も色褪せない“怪物江川”に挑んだ気迫――「夏の甲子園」百年史に刻まれた三大勝負

野球週刊新潮 2018年8月2日号掲載

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「夏の甲子園」百年史に刻まれた「三大勝負」――門田隆将(2/3)

 これまで数多く登場してきた怪物投手の中で、なんといっても話題を独占したのは昭和48年夏の作新学院・江川卓だろう。その江川に初戦で挑んだ福岡代表の柳川商の戦いは、これまた歴史に残るものだった。

 この年の選抜甲子園で、奪三振記録を43年ぶりに塗り替えた江川は、夏の栃木県予選でも投球回数44で実に奪三振75、決勝を含む3試合がノーヒット・ノーランという怪物ぶりを見せつけていた。

 柳川打線は、その江川に対してバントの構えから投球に合わせて一旦バットを引き、そこからコンパクトに振り抜く「プッシュ打法」で挑戦した。いかに剛速球であろうと、「同じ高校生。ベルト付近の球を中心に徹底的に打ち返していく」という作戦だ。一方の柳川商のエースは2年生の松尾。黒縁の眼鏡をかけて、サイドスローから内外角を突く鋭いストレートとカーブ、シュートが武器だ。

 打ちとられても打ちとられても、柳川打線のしつこいプッシュ打法はつづく。やがて0対0で迎えた6回表、ゲームは動いた。2死から2番古賀が3塁強襲ヒットで出塁すると、3番松藤が江川の剛速球を捉え、右中間に目の覚めるような長打を放つ。ボールが外野を転々とする間に、古賀がホームを駆け抜けた。江川の栃木県予選からの連続無失点は49イニングでストップしたのである。

 作新打線も食い下がった。7回裏、ヒットとエラーで掴んだ1死2、3塁から内野ゴロの間に3塁ランナーがホームインし、同点。そして、1対1で迎えた9回裏、作新は1死満塁のサヨナラのチャンスを迎えた。

 このとき観客は、信じられない光景を目撃する。なんと柳川のセンター松藤が、ピッチャーとサードの間にやって来たのである。スクイズ阻止の奇策で、「5人内野」のシフトだった。投球と同時に松尾投手は1塁側へのスクイズに“専念”し、3塁側へのスクイズは、松藤中堅手に任せるのだ。

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