“ペットボトルに詰めた米”を韓国の海へ 飢える「北朝鮮人民」を救う脱北者

国際 韓国・北朝鮮 週刊新潮 2018年6月28日号掲載

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 黄海に臨む韓国最北部の浜辺に大量のペットボトルを持ち込む人々がいた。中には白米が詰まっている。彼らはそれを次々と海へ投げ入れる。

 一団をひきいる金ヨンファ氏(65)は脱北者。こうして2リットルのペットボトルに入れた白米を北朝鮮へ送っている。

 その手法は奇抜だ。

 米を詰めるのはボトルの頂部から15センチのところまで。すると約1・3キロの重さになるが、頭を出して垂直に浮く。最も干潮の時に投入すれば、やがて潮が満ち、ボトルを確実に北へと運ぶ。そして7、8時間で北朝鮮に漂着する。この日、6月14日は約700本を投げ入れた。

 2年前から毎月2回行っている。そもそも各国の政府や団体が北へ送った米は、当局の幹部らがせしめるせいで人民にまでは回らない。しかし、これなら確実に届く。

 開始当時、ボトルを発見した北の当局者は住民に「毒が入っている。食べたら内臓が腐って死ぬぞ!」とお達しを出した。けれども、ある住民が犬や鶏に食べさせたら丸々と太っていき、退役軍人の一家も「どうせなら最後に腹一杯食って死のう」と覚悟して食べたところ、逆に力が湧いてきた。

 噂はすぐに広まり、米を食べた20人ほどがすでに脱北している。ボトル1本の米で、4人家族が草などを混ぜて粥のように炊き、10日も飢えを凌いだともいう。今では殆どが闇市場で米を売り、トウモロコシや家畜の飼料に換えている。

 最近になって金氏は韓国の政府機関、統一部から呼び出しの電話を受けた。行く気はないと断ると、相手は「米を送るのをやめてくれませんか?」と告げた。北朝鮮に対して従属的とされる文在寅政権ならではだ。金氏は怒りに任せてこう言った。

「政府のエラい人は平壌から運ばれた冷麺を食っていればいい。俺は飢えた住民を助ける。絶対にやめない」

 金氏は鉄道警察官だった1988年、平壌防衛のための高射砲弾丸を運ぶ列車に乗務中、脱線転覆事故に遭った。当局の友人から「銃殺されるぞ」と知らされ、中国へ脱出。ベトナム経由で韓国に入った。

 金氏が脱北した直後、妻と幼い子供3人は自宅から連れ出され、「一家でアメリカのスパイだろ」と濡れ衣を着せられて殺害されたと脱北者から聞かされた。

 今、彼に協力するボランティアの多くが脱北者だ。

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