吉野家「牛丼並盛」は夏休み中190円!? 背景は日本の少子高齢化

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通販ビジネスも手応え

 今回のキャンペーンから浮かぶのは、吉野家の「少子高齢化」に対する戦略だ。これまでのように男性客中心のビジネスは遅かれ早かれ、成り立たなくなっていく。ファミリー層の取り込みが喫緊の課題というわけだ。

 吉野家は知名度が極めて高いため、母親=女性客も興味は持っている。父親=男性客はファンが多いので来店には前向きだろう。子供半額が経緯となり、特に郊外店を中心に家族連れの来店が増える可能性が出てくる。つまり客層がマクドナルドやファミレスに近づいていくわけだ。

 こうした期間限定のキャンペーンだけでなく、吉野家は少子高齢化の対応商品も着実に成長させている。冷凍の「牛丼の具」を中心とする通販商品だ。公式サイトを見れば、牛丼、豚丼、鰻、みそ汁、お新香、キムチ……と、吉野家の店舗で食べられる多くの商品が通販でも売られていることに気づく。

「10年以上前から始めています。最初は『お店の味をご家庭でも』というコンセプトだったのですが、次第に主婦層と高齢者を意識するようになりました。主婦の皆さまには『おうち吉野家』として、牛丼の具を“素材”としても使っていただこうとPRも行っています。具体的にはサイトで牛丼の具を肉じゃが、ハッシュドビーフ、ビーフサンドなどにアレンジできるレシピを紹介しています。高齢者の皆さまは、かつて現役時代に会社近くの吉野家で牛丼を食べてくださったのですが、現在はなかなか店舗には行けないという方々をイメージしています。昔を懐かしんで自宅で食べてもらう、そのために通販というわけです」(同・広報担当)

日本経済の浮沈を握るのは吉野家!?

 具体的な数字は非公表だが、着実に右肩上がりの成長を続けているという。実際、テレビの通販番組で取り上げられたり、生協などで販売されたりすることも増えてきた。認知度やファンが順調に伸びている証拠だろう。

 ちなみに「おうち吉野家」は現在、何とハローキティーとコラボしたキャンペーンを実施している。税込1500円以上購入すると、ハローキティのランチクロスが先着順でプレゼントされるほか、抽選でマルチボウルセットやランチジャーが当たるという内容だ。公式サイトのインパクトはなかなかのものがある。

「確かに少子高齢化というのは大変な逆風です。まさに『胃袋の数が少なくなる』のですから、我々にとっては死活問題です。しかし外食産業全体に言えることですが、幸いなことに人間は1日に3回も食事をします。そのうちの1回でも弊社の商品を口にしてくだされば、持続可能なビジネスを展開できる可能性が高まります。そのためにも、男女の垣根を越え、皆さまに喜んでもらえるようなサービスを、今後もお届けする必要があると考えています」(同・広報担当)

 7月6日、吉野家は2018年3~5月期の連結決算を発表したのだが、何と同期としては5年ぶりの赤字に転落してしまった。売上は497億9400万円で、前年同期比で2.7%増と伸ばした。にもかかわらず、営業利益は1億7800万円、純利益は3億8800万円の赤字となったのは、食材と人材の確保でコストが増大したことが主な理由だ。

 少子高齢化は顧客の減少だけでなく、従業員の確保も困難にする。そのために人件費を筆頭に製造コスト増を招く――文字にすれば当たり前という印象が強いが、吉野家が直面しているのは日本経済そのものが抱えている大問題だ。

 だからこそ、吉野家のチャレンジが成功を収めれば、それは「日本経済の処方箋」となる可能性も高まっていく。

週刊新潮WEB取材班

2018年8月5日掲載

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