「ばぁば」呼びを受け入れた母の変貌に落胆…(中川淳一郎)

ライフ週刊新潮 2018年8月2日号掲載

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 いやぁ~、言葉ってものは変わるものですね。かつて“祖父母”は「じっさま・ばっさま」から「おじいさん・おばあさん」「おじいちゃん・おばあちゃん」と少しずつ身近になる変遷を見せていました。それが今や「じぃじ」「ばぁば」と言うそうではありませんか!

 この言葉、私はなんか気持ち悪いんですよ……。魚のことを幼児語で「じーじー」なんて言ったことを思い出しますが、「じぃじ」「ばぁば」って、老人をかわいらしい存在にしようとする意図が感じられ、孫のことをとにかくかわいがる好々爺や「かわいいおばあさん」に仕立てて、小遣いをせしめることを正当化してるだけじゃね?と思います。

 本来、老人ってものは、人生の酸いも甘いも噛み分けた「達人」的文脈で尊敬の対象になっていたのではないでしょうか。「古老」や「長老」といった言い方にそれは表れています。それなのに、その「じぃじ」と「ばぁば」の息子・娘であろうはずの人たちが、子供が生まれたら、自分自身の父母を「お父さん」「お母さん」から「じぃじ」「ばぁば」に自然と変えてしまう。

 私には1971年生まれの姉がいるのですが、彼女も2人の息子(私にとっては甥っ子)に対しては両親のことを「じぃじ」「ばぁば」と呼ばせています。

 私は子供はいないし、一生作る気もありませんが、何よりも私が腹立たしいのは、私の両親が「じぃじ」「ばぁば」という呼び方を自然と受け入れていることです。実は私の母は「お母さん」と呼ぶことさえ禁止する親でした。「“お母様”と呼べ!」と言い、権威の維持を目論んでいたにもかかわらず、今や「ばぁば」を受け入れている。

 人は変わるものではあるものの、正直母親のこの変貌ぶりには落胆してしまいました。しかも面白いのは、彼女は「世間は孫がかわいいと言うが、本当は自分が腹を痛めて生んだ息子・娘の方がかわいいに決まっている。孫は息子・娘が頑張って育ててくれればいい」と40代の頃は言っていたわけですね。どうしてこうなった……。

「じぃじ」「ばぁば」を芸能人ブロガーはしきりと使いますが、それまで「お父さん」「お母さん」と言っていた我が子からそんなかわいらしい呼称で呼ばれる老父と老母は本気でそれを良しとしているのですか?

 あと、こうした呼称で毎度違和感を覚えるのが、テレビ番組で芸能人がロケに行った時、地元の老婆と老爺に対して「お母さん」「お父さん」と呼ぶことです。これを60歳ぐらいの芸能人が70歳ぐらいの地元の人に対して使うことが実に不快です。

 正直自分が70歳を過ぎて、見ず知らずの年下から「お父さん」なんて言われたらその場で放尿して明確な不快感をあらわにしたくなります。今44歳の私は見ず知らずの若者や子供から「おじさん」と言われてもまったく気になりません。でも「お父さん」はイヤだし、「お兄ちゃん」も違う。

 個々人の呼び方については、新しいものは不要なのでは? 「ガキ」「坊ちゃん」「お嬢ちゃん」「アンチャン」「ネエチャン」「オッサン」「オバサン」「爺さん」「婆さん」というクラシックなものに加え「ギャル」「アニキ」ぐらいでいいのではないでしょうか。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。