トランプ支持者の牙城「ラストベルト」の真相 アメリカに2度棄てられた町

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 トランプ大統領周辺が再び賑やかだ。米朝会談の成功を「演出」すると、ただちに新たな関税の導入を発表。EUや中国がこれに猛反発、報復合戦が加熱しているが、これは今年11月に行われる中間選挙を意識したトランプによるパフォーマンスとみる向きが強い。

 トランプの支持基盤といえばオハイオ州をはじめとするかつての工業地帯。アメリカは1990年代、工業や製造業に見切りをつけてITと金融に活路を見出し、結果シリコンバレーや金融街は次々と億万長者を生み出した。しかし、オハイオ州の人々は繁栄から見捨てられて「棄民」となり、町は「ラストベルト」=錆びついた工業地帯と呼ばれるようになった。トランプはその層を狙い撃ちにしたのである。

〈この50年のあいだに、国民の生活は大きく変わった。革命が起きたと言っていい。社会が工業中心へと変わっていき、それに伴ってありとあらゆる騒音が湧(わ)き起こった。海外から私たちのところにやって来た何百万もの新しい人々が金切り声をあげ、列車が行き来し、都市が発展した。都市と都市を結ぶ鉄道線路が建設されて縫うように都市に出入りし、農家のわきを走った。さらに時代が下ると、自動車が登場し、中部アメリカの国民の生活と習慣と思考にすさまじい変化をもたらすことになる〉

「工業」を「IT」や「金融」に代えれば現在でも通用しそうだが、これはトランプ大統領誕生からさかのぼること約100年前に書かれた、オハイオ州を舞台とした小説『ワインズバーグ、オハイオ』(新潮文庫刊)からの一節。1908年に製造が始まったT型フォードに象徴されるように、アメリカは19世紀末に農業国から工業国へと転換を図った。農業地帯だったオハイオ州は、100年前にも翻弄され、見捨てられたのである。

 評論家の川本三郎さんは同作をこう評している。〈一見、平穏に見えるスモールタウン、ワインズバーグだが、「革命」「すさまじい変化」にさらされようとしている。変革期は人の心を揺さぶる。これまでの生活が壊されてゆく。時代の変化に付いてゆけなくなる。ワインズバーグの「いびつな者たち」の孤独、不安、疎外感の背景には、この19世紀末にアメリカを襲った大きな変化がある。アンダーソンは、その変化を小さな町に暮す人々の心を通して、描くことに成功している〉(同書「解説」より)

 われわれがアメリカ人だと認識しているのは、東海岸や西海岸でITや金融など先進的な仕事に就き、SNSで発信する力のある一握りの都市生活者に過ぎない。トランプを大統領に押し上げた、この「棄民」のことを知らなければ、アメリカという国の真の姿は理解できないのである。

デイリー新潮編集部

2018年7月10日掲載

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