オウム事件の原点 信者は32年前に出版された“あの本”にみんな騙された
「結局、オウムって、教義がどうこうとかマインドコントロールとか言うより前に、あの本が信者を増やしたきっかけだった。信者にとっては、いわば“必読の書”でした」
当時を知る、新聞記者が振り返る――。あの本とは1986年に出版された麻原彰晃著『超能力「秘密の開発法」』(以下、秘密の開発法)である。地下鉄サリン事件の9年前、宗教団体「オウム真理教」を名乗る前年に出版されたもので、表紙には“空中浮遊”の写真も掲載されていた。
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本書の「はじめに」(新・増補大改訂版)には、こうある。
〈驚かないでほしい――これが本書を手にしたあなたへのお願いである。本書には知られざる超能力の世界が広がっているのだ。
超能力といっても、知られざる(編集部註:「知られざる」に傍点)とわざわざ付け加えたように、普通考えられるような力だけではない。まず、本書の口絵の写真をご覧になっていただきたい。わたしの身体が宙に浮いているのを確認することができるだろう。これはトリックなど使っていない。合成写真でもない。空中浮遊と呼ばれる超能力の一種なのだ(一九八六年一月二十五日撮影)。重さのある肉体が重力の束縛から解き放たれて宙に浮くというこの超自然的な現象を、現代物理学で説明できないのはもちろんである。(中略)。わたしは、以前は超能力者ではなかった。ごく普通の人間だった。ふと人生に疑問を感じ、真実を求めて試行錯誤を繰り返すうちに、超能力を獲得する秘伝に巡り会ったのである。その秘伝を今明かそう、そう決心した。……〉
この程度の本で、なぜ超能力や空中浮揚を信じてしまったのか、と疑問を持つ方も多いだろう。
しかし、時代は86年、バブル経済が始まった年なのである。
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