「おっぱいから目が離せない」――「高次脳機能障害」になったライターが回復するまで

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 小室哲哉さんの引退で、注目をあびたのが妻のKEIKOさんが患う「高次脳機能障害」だ。2011年に、KEIKOさんがくも膜下出血で倒れて以後、介護してきた小室さんは「会話のやりとりができなくなった」「女性から、女の子みたいになった」「音楽に興味がなくなった」と、苦渋をにじませながら、病後の妻の変化をあげた。

 この「高次脳機能障害」、ケガや病気などのために脳が損なわれた結果、外見上は回復したように見えるが、記憶障害や歩行障害など、日常生活で様々な困難となる障害が残っている状態を指し、全国の患者数は50万人という推計もある。「怒りっぽくなった」「人が変わった」と言われることも多い。

 41歳で脳梗塞を発症し、やはり「高次脳機能障害」を患った鈴木大介氏(ライター)も、
「自分が自分ではない『変な人』になってしまったような猛烈な違和感や、自分を取り巻く世界が変貌してしまったような異世界感の中で激しく混乱し、とりみだし」たと言う。その時の状況を新著『脳は回復する――高次脳機能障害からの脱出』の中で、鈴木氏はこう振り返っている(以下、引用は同書より)

「まず第一に視線のコントロールが全然できない。自分の左側に『絶対に見てはいけないもの』があるような強い忌避感があって、視線はどうしても右側を見てしまう。だがそれだけではなく、見てしまった右側に何か注意を引くものがあると、それを凝視してしまって、自らの意思で視線を外すことができないのだ」

 単に右側を見るだけならば、そんなに支障はないのでは、と思われるかもしれない。顔の向きでどうにかなるだろう、と。しかし事態はそう単純ではなかった。

 鈴木氏の場合、なぜか「おっぱい」に目が釘付けになってしまうという困った症状があらわれたのだ。

「胸元の開いた服を着た女性ならそこを見ないようにするのも必死。一度見たならもう、自分の手で目を覆いでもしない限り、僕の視線は全力でおっぱい一直線である。

 本当にごめんなさい、おっぱいの持ち主。必死におっぱいから目を離そうにも、コントロールができないんです。そもそも僕はそこまでおっぱいにこだわるタイプじゃないけど、いや嫌いでもないんですけど、ごめんなさい」

 問題は視線だけではなかった。喜怒哀楽の感情のサイズが大きくなり、感情の抑制もきかなくなったのだ。

 それも普通の涙もろさとはわけが違う。病棟近くの公共施設から流れる「ゆうやけこやけ」のメロディが聴こえると、それだけで号泣してしまったのだ。

「まさか脳梗塞になって『おっぱいガン見男』や『フルタイム涙腺崩壊男』になるとは思ってもみなかった」(鈴木氏)

 当時、医者からは「脳梗塞後の障害は半年までは回復するが、その後は回復しない」と説明された鈴木氏。

 しかし、彼はそこで諦めなかった。自分がやれなくなったことを認識し、受容し、さらに対策方法を探り、それを試し続けた結果、病後2年と少したった頃、会話面と情緒面が劇的に改善。現在は99%病前の自分に戻ったという手応えを感じるまでに回復している。

 リハビリの極意は何だったのか。

 原因の病やケガの軽重や、環境などにもよるだろうが、鈴木氏は同書の中で「日常生活」こそが最大のそれだとしている。そして、その生活に寄り添ってくれる人の存在も大きい、と。

 高次脳機能障害は、時にとても長い時間をかけて回復する可能性がある。そのことを鈴木氏の存在自体が示しているのだ。

デイリー新潮編集部

2018年2月22日掲載

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