戻ってきた“ノーベル賞に最も近い日本人” がん医学権威「世界のナカムラ」が祖国に絶望したワケ

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「ノーベル賞に最も近い異端児」が切り拓く「がんゲノム医療」――窪田順生(上)

 かつて祖国に絶望した男が再び戻ってくる――。「ノーベル賞に最も近い日本人」と称されたがん医学の権威が今夏、国内に復帰。彼が日本に舞い戻り目指すのは、「リキッドバイオプシー」と「ネオアンチゲン」というがん医療の普及だ。最新技術の現状を紹介する。

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 この夏、日本の「がん医療」の行く末に大きな影響をあたえる男が、アメリカから6年ぶりに戻ってくる。ゲノム(全遺伝情報)を解析し、がんの治療に活かす研究の世界的権威として知られるその男の名は、中村祐輔(65)――。東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長、国立がん研究センター研究所所長、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長などを歴任後、2012年からアメリカに研究拠点を移していた中村が、シカゴ大学医学部教授という恵まれた立場を捨て、7月1日に東京・有明にある公益財団法人がん研究会「がんプレシジョン医療研究センター」のセンター長に就任するのだ。

 過去、大腸がん患者のゲノム研究で世界を驚かせたその中村が、まずは「ゲノム」と「がん治療」の関係について説明する。

「大腸がんの場合、たとえばAという遺伝子に異常があるとポリープができて、次にBという遺伝子に異常があるとポリープが大きくなり、さらにCという遺伝子に異常があるとがん化する、と段階的に進んでいくことがわかっています」

 つまり、我々が「がん」と呼んでいるものは、実は遺伝子の異常が積み重なり、細胞増殖に歯止めがきかなくなった状態を指すのだ。では、がん症状の「個人差」はどこからくるのか。それは遺伝子である。各個人の遺伝子異常の微妙な差が細胞の増殖具合の違いを生み、がんの「個体差」につながる。同じステージの大腸がんと診断された患者でも、進行度が違っていたり、抗がん剤が効く、効かないという「個人差」が生じたりするのは、すべて「ゲノム」の違いに由来するものなのだ。

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