方向音痴で50分遅刻 そんな私の特殊技能は(中川淳一郎)

社会週刊新潮 2018年6月7日号掲載

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 長く生きていれば、自分に備わった特異な能力と自分に欠けた能力というものが分かるようになります。私に欠けているのは方向感覚です。別の言葉でいえば「方向音痴」ですが、とにかく道が分からない。地下鉄から地上に出た時、そこが碁盤の目になっていると途方に暮れます。東京ならば日本橋、虎ノ門、銀座のあたりは鬼門です。

 正しい道は4つに1つ。スマホを持っていないので一応地図は頭に入れておき、行くべき方角は「北西」などと分かっている。しかし、碁盤の目に入るとどちらが「北西」なのか分からない。最終的にはエイヤとばかりに歩き始めるのですが、大抵は180度逆の「南東」に行ってしまうのです。

 以前、鶯谷の「東京キネマ倶楽部」でのライブに行くことになりました。駅から南西へ2分、というつもりでしたが、想定していたのとは別の改札に出てしまいました。それに気づかず、頭の中の地図を基に進んだら2分過ぎてもまったく影も形もない。スタート地点ですべてがぶっ壊れてしまったのも知らずに10分ほど歩き続けたところで、いつもの「あぁ、オレはもう完全に迷った」状態であることが分かったので、通行人に場所を聞くもエリア外のためポカーンとしている。

 この日は「オレは最初の直感の180度逆を行けば正しい方向に行く」という勘を信じて進んだのですが、出発地点が違うためどうにもならない。寛永寺などがあるエリアをうろうろしていたため、そこで会う人々にとっては「東京キネマ倶楽部」は馴染みがなかったようです。こうなったら方法は一つだけ。来た道を忠実に戻り、駅で駅員に道を聞くのです。50分遅刻でライブを見ることができました。

 方向音痴の厄介なところは、一応地図は頭に入っているのですが、現地に来ると体が逆方向に動いてしまうところです。それを避けるためには、急いでいるのならば、たとえ200メートルの距離でもタクシーに乗り住所を伝えてしまう。その点、東京で初乗りが410円になったのはありがたい限りです。

 一方、自分に備わった能力ですが、これらが実にどうでもいい能力だらけです。大谷翔平は「二刀流」で投手としても野手としても世界最高峰の実力を持っているのに加え、最近では脚が速い、しかもかわいいという新たなる能力まで注目されています。

 それに引き換え、私が備えた能力は「なぜか数字を覚えられる」というものです。小学館のNEWSポストセブンというサイトの編集をしている関係で、「週刊ポスト」や「女性セブン」本誌を読み、ネットに転載する記事を選びます。その記事が何ページにあるかをけっこう覚えられるのです。また、野球の出塁率に関する記述として「アメリカンリーグ1位はエンゼルスのトラウトで・442、2位はヤンキースのジャッジで・422」というのがあったらこれも覚えられる。だからといって特に利点はない。一方、名刺交換をしても最近はまったく名前を覚えられず、覚えられるのはあくまで数字だけという体たらく。

 あとは小便をする時、「これはアスパラガスを食った尿だ」「これはキーマカレーの尿だ」ということが分かりますが、これもどうでもいい能力です……。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。