追悼「西城秀樹」さん 「郷ひろみ」「野口五郎」と語った貴重な“還暦鼎談”

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言葉にできない感覚

【野口】 あのさ、僕、2人にちょっと聞きたいんだけど……。凄く忙しかった時のことを聞かれて、「よく覚えていないんです」って言うと、「うそでしょ?」って言われるんだよね。だけど、ホントに覚えていないことも結構あって。それと、凄くたくさんのファンの方がいたじゃない?

【西城】 うん。

【郷】 ありがたいことにね。

【野口】 そう、そうなんだけど、一方で僕の心のどこかには一種の恐怖心も同居していた気がする。そういう感覚ってどう? 恐怖という言葉が正しいのかどうか、分からないんだけど。

【西城】 微々たるもんだけど、憂鬱感はあったよ。

【野口】 或いは孤独感とか?

【郷】 確かに孤独感はあったかも。憂鬱感とはちょっと違うけど……。

【野口】 ごめんね、適当な言葉が見つからなくって……。「孤独感」が合っているのかもしれない。例えば、仕事が終わってホテルに帰ったふとした瞬間……。

【郷】 1人になるからね。

【西城】 言葉ではちょっと言い表せないなあ。

【野口】 この感覚を表現するのって凄く難しい。でも、もしかしたら、あの感覚を共有できるのはこの3人だけなのかなって思うんだ。

【西城】 そういう感覚は確かにあった。僕は19歳で一人暮らしを始めて、ドラマの『寺内貫太郎一家』に出始めると、自宅にファンが押し掛けるようになった。マンションの壁にメッセージを書かれたりして、それ以来、定期的に引っ越しをするハメになったし……。

【郷】 ただ、当時、僕らは10代で、あまりに若過ぎたじゃない?

【西城】 そうだね。

【郷】 だから、余り覚えていないというか。もしかしたら、五郎が一番大人だったかもしれないね。

【野口】 最初に僕で、1年経たない内に2人がデビューした。あの時、僕は嬉しくて仕方がなかった。同世代の仲間ができたってね。嬉しくて嬉しくて、ひろみのブロマイドを持って“新人だよ!”って、周りの皆に宣伝したくらいだったよ。

【西城】 あの頃、五郎は「可愛いな、あいつ」って、よく言ってたもんね(笑)。

【野口】 そうそう。

【西城】 で、周りから「おいおい、彼は男の子だよ」なんて言われたりしてた。

【郷】 16歳なら誰でも可愛いでしょ。別に僕だけじゃない(笑)。

――芸能界の頂点で活躍する3人の姿は、打つ位置で音色が変化する「トライアングル」のようでもあった。彼ら自身が気付かぬ間に、切っても切れない絆が生まれていた。

【野口】 でもさ、いま思えば、ひろみの生き様は凄い。自分の生き方を貫いていて、羨ましいぐらい格好良いと思うことがある。それから、秀樹には忘れられない言葉があって。89年頃かな、ミュージカル『坂本龍馬』で主演していた時、僕はそれを見に行ってパッと楽屋に入った。そしたら「五郎、俺は西城秀樹だから、何をやっても西城秀樹なんだよ」って。「えっ? そうか、そういう考え方もあるのか」って感心したんだ。

【西城】 覚えてないなあ(笑)。

【野口】 秀樹にとって、ごく当たり前の発想だからじゃない? だけど僕なんか、自分の中で凄い化学反応が起こったのね。だから、2人の生き方や何気ない一言が物凄い衝撃だったりする。

【西城】 僕もそれは常にあるね。2人とも頑張っているから、「じゃ、俺も頑張ろう」って気持ちになって。

【郷】 2人は常に僕の先を進んでいたから。僕にないものを持っていて、僕より一歩も二歩も先を歩いていた。だから、劣等感みたいなものがあった。でも、それがバネになったと思っています。「いつか、絶対に2人に追いつくんだ」って、そういう意識を持てたのは2人がいたからで、それが僕の原動力だから。忘れもしない、20代前半の頃、78年の『日本レコード大賞』で2人が揃って金賞を受賞したのに、僕だけ何も貰えなかった。あの時、「僕自身に力がないからだ」って受けとめて、自分を再構築しなきゃいけないと思った。2人は常に先を行っていたので、僕はその背中を3人兄弟の三男坊みたいな感覚で追いかけていたんです。

【野口】 兄弟か……。正直、感動しちゃった。ひろみの口から、そんな言葉が出るなんて思わなかったから。

【西城】 僕もだよ。でもね、今日はここに来た時から、ひろみの変化を感じていたんだ。ああ、ひろみは大人になった、丸くなったなって(笑)。言葉の端々に優しさを感じるよ。

【野口】 今日はもう、今のひろみの一言で十分。だって、ひろみは凄く個性的で、正直、僕らはすげえ奴だなあと思っていたから。でも、「自分が弟で」なんて……。僕もそうだし、秀樹もそんな風には思っていなかったと思うけど(笑)。

【西城】 五郎が長男で僕が次男? 或いは双子とか(笑)。

【郷】 あの時から2人が先にいてくれたから、今の自分があると思うんですよ。

【野口】 そんなことないよ、そんなことない……。

【郷】 やっぱり、僕にとって2人は追いかけるべき兄のようだった。だからこそ、自分が頑張る全ての原動力になったわけで。本当にずっと、そう思っていた。

【野口】 僕ら3人の芸能生活はちょうど45周年。そして60歳になるということはこういうことなんだなあって、僕はしみじみ感じているよ。

【西城】 年を重ねるということは、それだけ色々と学んできたわけでしょ。そして新たな1年を迎えて、また学んだり挑戦する。

【郷】 それが僕たちに共通して言えることじゃないかな。生き方とか、進む方向、スピードはそれぞれ違うかもしれない。だけど、常に芯を持った強い心を胸に秘めている。だからこそ、まだまだ前に進める。

【野口】 これまでも、ずっと緊張感を持ってやってきたけど、それは今後も同じだと思う。例えば、暴飲暴食をしないのは当たり前。そういう緊張感で自分を律していく。歌を歌っていきたい、未来のことを考えたいという意識の中に、自然な緊張感が維持されている。この前、16歳の時の雑誌が出てきたんだけど、そこで「5年後にどうなっているか」と質問されていて、僕は「青山で喫茶店を開いて、歌うスペースを作って、そこで歌っている」だって(笑)。

【郷】 えらいこぢんまりした夢だ(笑)。

【野口】 そうそう。でもさ、5年、10年歌い続けるなんて、当時は夢のまた夢だったから。

【郷】 そういえば、僕も先のことなんて考えてなかった。

【西城】 同じだなあ。

【郷】 僕も同じことを聞かれたら、五郎と同じくこぢんまり答えていたと思う(笑)。あの頃って、物凄い速さで毎日が過ぎていて、そこで生きていくのに必死だったもんね。

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