鈴木亮平主演「西郷どん」に登場した“妖しい僧侶”月照とは? 歴史家・磯田道史のディープ解説

社会2018年4月22日掲載

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 スタートから3カ月が経ち、いよいよ盛り上がりを見せる「西郷どん」。男臭い出演者が多い中で異彩を放っているのが、最近登場した尾上菊之助演じる僧侶「月照」だ。どこか中性的な妖しい雰囲気を漂わせている。

 歴史教科書にはあまり出てくる人物ではないので、幕末関連の小説や漫画に親しんでいない方には馴染みが薄いかもしれないが、この僧侶、西郷隆盛の人生、ひいては日本史には大きな影響を与えた人物である。

 ドラマの時代考証もつとめた磯田道史さんの解説を、新著『素顔の西郷隆盛』から抜粋、引用して紹介しよう。なお、なるべくストーリーを知らずにドラマを見たいという方は、この先は読まないことをお勧めしたい。

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「月照とはどのような人物だったのでしょうか。

『月照上人伝』(田中安太郎)によると、容貌はやさしく体も小さく、女性みたいだったといいます。顔が青白くて眉が長かったのは、おそらく自分で整えていたものでしょう。いつも綺麗な藤色の着物を着ていて、決して大きな声では話さない。見方によっては、稚児文化の粋みたいな存在だったのかもしれません。

 学問や芸事に優れ、お花や和歌、書に陶器や篆刻(てんこく)もできて、梵語が得意で曼荼羅にくわしく、とかく神秘的なものに惹かれていたのは、呪力によって天皇を守るという意識があったからでしょう。

 年は西郷より15歳上で、大坂の町医者の家に生まれて清水寺の成就院に入り、やがて住職となりました。公家の近衛家とつながりがあり、勤皇僧として国内を歩き回っていた時期、江戸にいたこともあるようです。『大君』『君が代』が口癖で、将軍継嗣問題では一橋派として動き回っていた。天皇の旧跡巡りが好きでフットワークの軽い月照は、斉彬にとっても利用価値があったのだと思います。

 程度は分かりませんが、月照が西郷の心の支えにはなっていたのは確かなようで、月照は西郷に対してこう話したともいわれます。

『あなたは仏の教えには浅いけれども、よく仏の理を知り、仏の理に従って行動している。何を知らなくとも自然に仏の教えを行うことができるというのは、生まれつき仏の心を持っているのでしょう』

 月照は、天真爛漫にして慈悲のある西郷に仏道を見ていたのかもしれません」

 この後西郷は、斉彬の急死と井伊直弼ら幕府による尊攘派への厳しい追及の中、鹿児島の錦江湾で月照と共に入水、いわゆる心中未遂事件を起こす。

 磯田さんは事件の背景にある当事者の心理をこう解説する。

「月照は、一緒に飛び込んであげないとかわいそうだ、と西郷に思わせるような人物だったのでしょう。一方では、人の気持ちを汲むことに重きを置いたのが西郷ですから、月照も、一緒に死んでくれた、という思いで身を投げたに違いありません。

 もともと西郷は、目の前にいるものなら、なんでもすべて、それに心が憑依してしまうようなところがあります。たとえば犬と一緒にいて、犬がウナギを食べたいそぶりを見せると、自分も大好物なのにあげてしまう。(略)

 自他の区別がない、他人と境目がないばかりか、犬と自分の区別さえもないところがありました。だから、一緒にいるとやがて餅みたいに共感で膨れ上がり、一体化してしまう。自分と他者を峻別するのが西洋人とするなら、それとは違う日本的な心性を突き詰めたのが西郷であり、だからこそ時代を超えた人気があるのだと思います」

 ドラマで2人の関係がどのように描かれるのかは、乞うご期待というところである。

デイリー新潮編集部