春に飛び回る「インスタ蠅」たち 辞令をアップする防衛省職員、“桜切る馬鹿”

社会 週刊新潮 2018年4月19日号掲載

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 寒々とした冬木立が、その装いを変える頃を「木(こ)の芽時」という。動物が冬眠から覚めるように、人心も浮足立つので戒めよ。先人たちはそう言って己を律したが、今春のニッポンはどうだろう。新種の「インスタ蝿(ばえ)」が飛び交って、世を騒がせる言動を振りまくのだ。

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 人類が写真を撮るという営みを始めて、およそ190年もの時が刻まれたが、現代(いま)ほど日々多くの写真が撮られるのは、歴史始まって以来の出来事だという。

 それに大きく貢献するのは、撮った写真を気軽に投稿できるSNSのインスタグラム、通称インスタだ。奇しくも、4月6日には富士フイルムが国産白黒フィルムの販売終了を発表。まさに時代はデジタル一色で、昨年の新語・流行語大賞を受賞した「インスタ映(ば)え」は、安倍総理が地方創生の起爆剤と持て囃してもいる。

 けれど、よりよいアングルや人と違う写真を投稿したい、そんな「インスタ映え」を求める気持ちは、いつしか人々を「インスタ蝿」に変えてしまう。彼らの大好物は就職、転勤――。1年で最も大きな転機を迎える春は、餌となる被写体に事欠かない。たとえば、インスタの検索機能で「辞令」と打てば、私を見て!と、ブンブン五月蠅(うるさ)い画像ばかりだ。

 中でも目を引くのは、防衛省から〈3等陸曹〉に任用された職員への辞令書である。投稿した主は30代と思しき都内在住の女性で、有事などで招集される予備自衛官であることが見て取れる。他の投稿では、航空機の前で敬礼し嬉しそうに微笑む姿もアップするのだ。

 改めておさらいすると、インスタはウェブ上に写真や動画を投稿し他人と共有するアプリである。8年前にアメリカで生まれ、世界中で毎月8億人、日本でものべ2000万人が利用している。投稿画像を見た利用者が〈いいね!〉と称賛のボタンを押すことで、満足感が得られる仕組みだ。

 基本的には誰もがアクセスできるウェブ上に、軍事機密を扱う防衛省職員がいわば内部文書を掲げていたことになる。防衛省のみならず、名の知れたところだけ挙げても、北海道大学から非常勤講師を委嘱されたある人物や、日本郵便の社員など。中小企業も含めれば枚挙に遑(いとま)がない。

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